◇ Ⅹ - ⅱ ◇ Ⅹ ◇
「――――待ちやがれっ!!」
昼休みに廊下で見つけたもう一人の“オレ”を追いかける事、数分。
今、走っている場所は、校舎と、学校を囲う塀との間にある狭い道。つまりは、外だ。上履きのまま追い駆けて来たので実に走りにくかったが、思いの他奴との距離は離されていない。
いや、離される訳にはいかない。
ここで見失ったら、今オレを取り巻いている状況が、もっともっと長引いて酷い事になる。そうなってしまえば、もっとずっと、ツナ達の顔に暗い影が落ち続ける事になるだろう。
――――そんなのは絶対に嫌だ。
だからオレは、走る。
オレの前を走る“オレ”を見失わないように、少し緩い上履きが、脱げそうで、何時転んでしまうか分からないけど、曲がり角で見失うかと思って焦ったけど、入り組んだ自転車置き場に逃げ込まれたけど、大丈夫だ。問題なんてない。
校舎の壁で腕を擦り剥いた気がする。
転びそうになった時に足首を捻った気がする。
だけど、そんなの全然問題ない。
絶対に捕まえる。
その為の勲章だと思えば良い。
だから――――
「これで仕舞いだああああーーーーーーーーっ!!」
前を走る“オレ”はすぐ目の前だった。手を伸ばせば掠める範囲。だからラストスパートを掛けて突っ込んだ。体当たりをかます瞬間に、目の前を走っていたオレがこちらを振り向いて目が合う。オレと同じ色の瞳、父さん譲りの真っ黒なその目が……
瞬間、笑った気がした。
勢い付けて突っ込んだ場所は……なんだろうか。廃材置き場の様な場所だった。校内の隅っこにある小さな倉庫の脇。思いっきりその場所に突っ込んだものだから、その場に置いてあった長い角材やらベニヤ板やらが、オレと“オレ”の上に雪崩れ込むように落ちてきた。角材の角などが背中に当たって痛かったが、今はそんな事どうでも良い。痛さよりもコイツを捕まえた嬉しさの方が勝っている。
オレの体の下には、オレと同じ並中の制服に身を包んだ“オレ”。
“偽者のオレ”。
嬉しかった。
これで、女の子達も恐怖から開放される。
これで、ツナ達も笑ってくれる。
そう思うだけで、自然と口角が上がった。
――――でも。
オレはもっと考えるべきだった。
昨日、コイツを追いかけた後に、コイツは一体何処に消えたのか。
その“異常さ”について、もっと思慮深く、考えるべきだったんだ。
「くく……捕まえられてしまったなあ……」
オレの下で倒れている“オレ”が言う。
長い角材で顔上部が隠れて、その表情は伺えないが口元は笑っている。ソイツに答えるようにして、オレも口を開くが、息が切れて言葉が途切れ途切れになってしまった。
「はっ……はあ、もう……逃げられないぞ。きっと……騒動を聞き付けた閣下……風紀委員が、もうじきここに、来る……からな、ざまあみろっ」
あれだけ校内を駆け抜けたんだ。みんなきっと騒いで、オレが誰かを追い駆けていたと聞いた閣下が必ず来てくれるはずだ。きっと、ツナ達だって。
そう思って言った言葉。
でも、オレが組み伏せるソイツは、自分の現状が分かっていないのか、余裕を持った声音で言葉を並べる。その口元からは、嫌な微笑みが消えない。
「くく、本当にそうなると良いけれどね」
「………………?」
「これは“君”と“我々”の“ゲーム”だ」
「……何を」
訳の分からない事を言うソイツに、オレはただ首を傾げる。
「くくくく、もうすぐ“彼等”が来る。その時がチェックメイトだよ」
「…………かれら?」
「そう……彼等。君が愛して止まない彼等に、君は、突き崩される」
本当に、本当に意味が分からない。
コイツの言う“彼等”とは誰だ?
そもそも、ゲーム? チェック? なんの話だ?
それに『突き崩される』……だなんて、不吉な。
オレはオレの下の“オレ”の言葉に頭を悩ませる。
けど背後――校舎の出入り口の一つである鉄扉の方から声が聞こえてきた事で、すぐにそれを中断する。そもそもが、半ばどうでもいい事だったので、頭は早々に切り替わった。
聞こえた声を察するに、オレのよく知った人物達――ツナと、ごっ君に山さん、了兄さんの声も聞こえてくる。
正直オレは、やった、と思った。
直にオレとコイツを見て貰えば、オレの容疑、それからオレへの疑念が消えるかもしれない。だから、オレはソイツを逃がさない様に、胸倉を押さえつけた。いまだに、にやけ続けているソイツに少しだけ違和感を感じながらも、後ろから聞こえてくる声を待って、ソイツから目を離さないように心掛けた。
そしたら、のコイツの行動。
ソイツは、口角を更に大きく吊り上げて、高い声で口を開いた。
そう。さっきまでと全然違う、高い……女の子のような声で――――
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