◇ Ⅹ - ⅳ ◇ Ⅹ ◇
抑えられない感情が、オレの頭を暴走させた。表面が削れるほどの強さで、歯を食いしばった後、気が付いたらオレは、叫びながらにソイツの方へと掴み掛かっていた。
「貴っ様ああああっ!!」
「きゃ!」
「ふざけやがってっ! 何がしたいんだよ! オレに何の恨みがある!」
「おい! よさんか白井!!」
“オレ”に化けた女に掴みかかるオレを、傍にいる了兄さんが止めようとする。だけどオレにはそんな声は聞こえないし、傍にいる誰も目に入らない。
ひたすら、目の前のヤツだけが、憎い。
「昨日のもお前なんだろう!? その前も、その前も、その前も!!」
「いや!」
「おい白井!!」
「何考えてんだよ! ふざけやがって! 馬鹿にしやがって!!」
「おい……っ!」
「許さねえ、絶対に! ――――ぶっ殺してやる!!」
「いい加減にしろっ!!」
叫んだ次の瞬間、左頬に鈍い痛みが走った。
はっとすれば、オレはまた廃材の上に座り込んでいた。
痛みを感じるままに目を見開いて、左頬に触れれば、絆創膏が剥がれていて、針を指した様な痛みが走る。口の中では、鉄の血の味。殴られた事と、自分を殴った人物を認識するのに余り時間は要さなかった。
右に逸れていた視線を正面に向ければ、オレを殴った……右拳を振り下ろした状態のまま固まっている了兄さん。殴られた事で頭が冷静になったオレは、その状況にそれほど混乱する事はなかった。
……なかった、からこそなのか。
オレの頭を巡ったのは、あまり今の状況に関係の無い事ばかり。
『怒られちゃったなあ、て……言うか、了兄さんの右ストレートはきついよ。死ぬわ。歯は……うあ奇跡だ。折れてない……けど、あーあー、絆創膏剥がれちゃったよ。保健室……行かなきゃな。あ、兄さんの指、オレの血が付いてる。痛かった……かな? ……殴る方が痛いって聞くしな。そう言えばツナは……ああ、どうしよう。怒られる。嫌われたかも。でも、まあ。こんな状況じゃ仕方ない……よなあ』
ああ、全く持って関係の無い事ばかりだ。多分一種の現実逃避だろう。オレの悪い癖のひとつだな……なんて、また関係ない事に頭を巡らせて。
左手側――運動場の方から何人かの足音。
顔を向けるのも何だか面倒だったので、視線だけをそちらに向けた。そしてオレの目に入ってくる、黒い制服に身を包んだ、数人の人間。
……ああ、怒られる。
たぶんオレの命日は今日だ。
最後の最後に、本当にくだらない事を考えながら、視線は自分の足元に落ちた。そして、オレの黒のスニーカーの横に立つ黒の革靴を視界に捉えて、降り注いでくる怖いほど冷静な声に、耳を傾けた――――
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