ⅩⅩ - 人皆旅人

◇ Ⅹ - ⅴ ◇ Ⅹ ◇

「――――何してるの」

 部外者に付けていた委員から連絡を受けた時は、正直、腸(はらわた)が煮え繰り返るような思いだった。


 ――――白井時を見失った。


 それも、追い駆ける途中で誰かにぶつかって。
 確実に、昨日の部外者に化けた“アレ”の手による妨害だ。
 そして、部外者の向かった場所に来て見れば。


 この有様だ。


 廃材の中に座り込んでる、左頬を赤く腫れさせ、昨日の傷から血を流している白井時。右手に血を付けて立ち尽くした、恐らく部外者を殴ったのだろう、笹川了平。僕の存在に目を見開いて、間抜けな顔をしている、獄寺隼人。状況に追い着けていない、莫迦な、草食動物。

 そして。

 その腕の中に見た事のない、並盛女性徒を抱え込む、山本武。


 ――――イライラする。

「ねえ……何してるの、って聞いたんだけど」

 答えが返って来ない事にも嫌気が差しながら再度口を開く。
 間もなく返って来たのも、いらない答え。

「何って……時……白井が、コイツを」
「君には聞いてないよ山本武。僕が声を掛けたのはこの――――」

 ――――白井時だ、と足元でうな垂れている部外者の靴を蹴る。
 ずっと押し黙っていた彼は、顔を上げてこちらに目を向けた。

 ワオ、無様な眼だ。

「何って……」
「この状況は何? “余計な事”をしたんじゃないの?」

 余計な事、の部分を強調する様に言えば、部外者の力無い目が揺れる。
 昨日、僕の言った事を覚えているからのこの反応。
 だと言うのにこの有様。

「……したんだね」

 咎める様に言えば、反論の意思を宿して、部外者の目が見開かれる。

「違っ! だってオレがいたから! 追い駆けるだろ普通!? だから」
「だから何? 結果がこの有様なら“余計な事”だよ」
「それは!! ……それ……は……」

 反論しようとしても良い言葉が思い浮かばないのか、また部外者はうな垂れた。何時もなら無駄に元気なテンションと、訳の分からない言葉でどうとでも返してくるのに。今回の部外者は大人しく身を引いていった。


 ――――気味が悪い。


 彼の話ばかり聞いていても始まらないので、部外者への視線を傍に立つ連中へと移す。そしてすぐさま目に飛び込んできたのは、僕に向けられた笑顔。それは、山本武の腕に涙を流しながら縋りつく女からの物で。

 昨夜見た“アレ”と同じモノだった。
 部外者が追い駆けたのは“コレ”らしい。

 そいつの笑顔を目に移した僕は、必然的に山本武を睨み据える様な形になって、彼が少し後ずさるのを頭の端で認識した。

「……ねぇ……“ソレ”は何」
「……は?」
「君に縋り付いてるソレだよ」
「あ……ああ、ソレってコイツか…」

 コイツ、と言って、山本武の目は自分の腕の中に居る“ソレ”に向けられる。瞬間、顔に笑顔を貼り付けていた“ソレ”は、すぐさま弱い小動物の様な顔へと変わった。

 不愉快極まりない。

「そ……その女子は、その……白井が……襲っていて、そこにオレ達がたまたま駆けつけてな……助けたんだ」

 僕の問いに答えたのは、先程まで僕の右側で呆けていた笹川了平だ。

 右手に左手を添えて、僕に体を向けている。奇妙な格好だと思って、右手に目を向けたら、震えていた。そして、その震えを殺す様にして添えられる左手にはかなりの力が入っているのか、押さえ込まれている場所に爪が食い込んでいる。

「……そんな風になるくらいなら、始めから殴らなければいいのに」
「……は……? な……何を訳の分からん事を」

 莫迦は嫌いだ。

「まあ、君が血を垂れ流そうが、誰が野垂れ死のうが、僕には関係無いから良いけど。くれぐれも並盛中敷地内では死体を晒さないでね」
「????」
「もういいよ。ここにはもう用は無い。僕は帰る」
「……は?! ちょ! 待てよヒバリ! この女はどうすんだ!?」

 そう言って、僕を引き止めた身の程知らずは、獄寺隼人。この女と向けられた手は、部外者が追い駆けてきた“アレ”に向けられている。

 ワオ、あの笑顔……ムカつく。

「そんな目障りな物、僕はどうでも良いんだけど」
「めざ……っ! モノだぁ!?」

 煩いな。

「それよりも、草壁」
「はい」
「部外者が怪我してる、手当てして、恩でも何でも売っておくと良いよ」
「分かりました」
「んな゛!? ちょっと待てヒバリ! なんで白井なんざ手当てして、この女はどうもしねぇんだ! 被害者はコイツだぞ! 何考えてやがる!」
「……煩いね君、咬み殺すよ」
「テッメェ」
「もういいよ」
「…………っ!」

 僕と莫迦の衝突を止めたのは、うな垂れたまま黙り込んでいた、部外者――白井時。草壁に手を借りて立ち上がった彼は、今尚、顔を俯かせたまま体をこちらに向けている状態だ。

「オレは大丈夫だからさ……そもそもオレ……加害者だし? 手当てされるいわれれもないって言うかさ……ごっくんの言うとおりでしょうよ」

 声が酷く単調だ。

 二日程前に僕へと向けられた声にはもっと強い意志を感じられたのに、今はそんなモノ微塵も無い。自暴自棄……とでも言う奴か。

「何勝手な事言ってるの」
「だって、事実だし……」
「白井?」
「オレ、もう、無理だし……」

 様子のおかしな部外者に、傍に立つ草壁も訝しげな表情で声を掛ける。

「誰も信じてくれないよ、オレみたいなヤツ……」
「………………」
「いいんだよ……仕方がないんだ……別にどうって事無い……」

 どんどん自分を卑下していく部外者に、流石の草食動物達も呆気に取られている。だけど、僕は黙ってられない。こう言う事を目の前でされるのは嫌いだ。だから胸倉を掴んで、顔を引き上げた。目を合わせる為のその行為に他意なんて無い。

 ……でも――――





 こんな無様な顔、見なければ良かった。





 空ろに僕を捉える目。何の感情も宿さない瞳が、苦々しく歪められていた。初めて会った時から、弱い癖に。その眼だけは何処か強く目障りなくらい輝いていた。

 でもこの眼は違う。

 たまに他校生の中でこういう眼をした奴を見る。
 世界全てに絶望したような眼。

 僕の嫌いな眼だ。

「……かっ!!」
「委員長!?」
「さっさと連れて行って、目障りだ」

 気が付いたら体が先に動いていて、トンファーを部外者の腹にのめり込ませていた。そして、意識を手放して草壁の腕に倒れ伏す部外者。これには流石に、草壁共々、草食動物達も声を上げていた。


 でも関係無い。


 この町のルールは僕だ。
 僕に逆らう奴は誰だろうと咬み殺す。
 だから、そんなつまらない眼をする部外者も。

「咬み殺す――――」

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