ⅩⅩⅩⅩ - 人皆旅人

◇ Ⅹ - ⅲ ◇ ⅩⅩⅩ ◇

「今日は起きてるかなあ……時」

 片手に下げたコンビニ袋を、ぶらぶらとさせながら、呟く。

 今日は、日曜日。
 学校は休みだ。

「大丈夫っすよ十代目! その内、ふらっと起きてきますって!」

 オレの呟きに返事をくれるのは、言わずもがな獄寺君だ。

 ここしばらくずっと一緒に時のお見舞いに付いて来てくれてる。まあ、獄寺君は良く『右腕だから』とか言う理由で、オレにくっ付いているんだけど、今回ばっかりは、たぶん違う理由もあるんだろう。

「そういえば、獄寺君聞いた? その、あの……事件の話」
「へ? ああ、例の“あれ”っすか? なんかあったんすか?」
「うん、ディーノさんとリボーンが言ってたんだけどさ――」

 例の――時が犯人にされていた『強姦未遂事件』。

 なんでも、二人の話によれば、丁度、時の意識が途切れてしまったあの日から、その事件とやらが『無かった事』になってしまっているらしい。

「無かった事……っすか?」
「う、ん……オレも良く分からないんだけど、なんか……襲われた、って言う女生徒とか、事件現場で時を見た、とか言ってた人達が『そんなの知らない』なんて事を言い出してたんだって」
「は、あ、なんすかそいつら。都合いい事抜かしやがって……」
「やっ、そうなんだけど、さっ」

 獄寺君こええっ。
 オレが睨まれてるみたいで、すげえこええっ。

「え、ええっとっ、あの、ほんとオレも良く分かんないんだけどさっ、なんか、その人達だけじゃなくて、他の……事件に関係ない、事件にニュース流した報道とか、そのニュース見た人達とか――言っちゃえば、全部の人から、事件の記憶だけ消えちゃってる感じ、らしい……よ」
「……そいつは妙な……」
「ね、ねえっ、変、だよねえっ」

 なんとか、獄寺君の眉間から皺が取れた。
 怖いって、あれは、ほんと、マジで。

 でも……うん、確かに妙なんだよな。
 まあ、ちょっと妙な事が起こり過ぎて、考えるのも面倒なんだけどさ。

「――――あ、山本」
「お。よお、ツナ、獄寺! 昼飯食ったか?」
「どんな挨拶だ野球馬鹿」

 凶悪な獄寺君の顔から視線を逸らして、ふと前を見たら、山本がいた。どうやらオレ達はシャマル居る病院まで着いていたようで、寿司桶を持った山本は丁度、中に入るところだったらしい。

「ははは! おもしれえなあ獄寺! 挨拶じゃねーよこれ! 親父が寿司たくさん握ってくれたっからさ。ついでにお前らも食うかな? ってな」

 山本の言葉に、イライラし始めた獄寺君は、見なかった事にする。

「まっ、まあ、じゃあ、とりあえず中入ろうか? 時の顔も見たいし」
「お、そうだな。わりーな足止めしちまって」
「いいよ、いいよ」

 山本の言葉にイライラしてる獄寺君は、見えない聞こえない。


 ……ああ、いや、でも、このぐらいが丁度いいのかもしれない。


 やっぱ時が目を覚まさない所為で、みんな色々もやもやしてる気がするし、このくらい喧嘩とか、例えば騒いだりとかしてる方が気も紛れるだろうし……うん、このくらいが、オレ達には丁度いいんだろうな。

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