ⅩⅩⅩⅩ - 人皆旅人

◇ Ⅹ - ⅳ ◇ ⅩⅩⅩ ◇

「あ、ディーノさん、こんにちは」

 病院内――廃病院を改装したらしい――の廊下を歩いて、間もなく。
 時の寝ている病室手前まで来たら、見慣れた金髪が目に入った。

 当然知っている人だったので、声をかけたら、とんでもない勢いで振り向かれて、とんでもない勢いで顔に似合わない流暢な日本語でまくし立てられて、いや、ちょっと、待って、落ち着いて! な状態になってしまった。

「いい所に来たツナ! ……と何時もの二人!」
「ついでかよ」
「いや参った事になってな! ああ! なんて説明したらいいのか!」
「ボスこっちはいないみたいです!」
「分かった! 次は向こうに行ってくれ! ――でな、今の状況を説明するとだな、いやほんと、俺にもさっぱりなんだが、いいか! 落ち着いて聞いてくれ!」
「てめぇが落ち着けよ」

 獄寺君がオレの代わりに、冷めた突込みを入れてくれる。

 でもディーノさんは、それを軽く無視するという、流石マフィアのボスすげえ、な行動をして、今のこの状況の説明に取り掛かった。よくよく周りを見てみると、どうも、随分慌しい様子だ。ディーノさんの部下達も、あっちこっちへと、右往左往して、何かしてる。

 一体全体、なんだこれ。

「ええっとな、実はな……!」
「あ、あの、とりあえず落ち着いてください」
「ああうん、そんな場合じゃねぇんだよっ、そのな、本当落ち着いて聞いてくれ、取り乱すなよ? その……実に言いにくい事なんだが……」

『――――時が消えた』

「…………は?」
「時が消えた」
「…………は?」
「てめぇ跳ね馬その派手な頭丸刈りにすんぞっ!」
「いや、だって、本当なんだってっ」
「あっはは、ツナのおじさんの冗談笑えねー」

 怒ってる獄寺君より、笑ってる山本が怖い。

 でも、ディーノさんの話を聞く限り、そんな事で怖がってる場合じゃない。『時が消えた』なんて、とんだ大事だ。とりあえず、怖い二人は見なかった事にして、時の事についてもっと詳しく聞かなくちゃいけないだろう。

「時が消えた……って、まだ見つかってないんですかっ?」
「ああ。シャマルの話じゃついさっき消えたらしいが……」

 シャマルが昼食をとる為に部屋を離れて、帰ってきた。その間に時はいなくなったんだろうと言う事だった。時が寝ていたはずのベッドが、もぬけの殻で、手分けして探し始めてから五分経つけど、まだ見つかってないらしい。たった五分だけど、リボーンも探しての五分らしいから、嫌でも焦る。

「幸い、うちが大所帯で来てたから人手には困っちゃいないんだが……」
「てめぇ、跳ね馬、使えねぇ、禿げろ!」
「俺の所為かよっ!」
「シャマルのクソ野郎もだ!」
「どなってる場合じゃねーだろ獄寺! とりあえず探さねーとっ」
「うるせぇ! んなこた分かってんだよ!」

 ここまで話を聞くと、流石の二人も焦るみたいだ。
 だけど、でも、焦ったところで何も解決しない。

 しないのは、凄く良く分かってるんだけど、やっぱり焦る。あれだけの事があって、ずっと目を覚まさなかった時が突然消えてしまったんだ。焦るな、なんてそんな器用な事、オレ達にはできっこない。

「どうしよう……! またなんかあったら……!」
「とにかく、早くオレ達も探そうぜツナ! おじさん、まだ探してない所とかないんすか? もうだいぶ探したろうから、すぐ見つかるかもしれないっす! 場所教えてください!」
「あ、ああ、そうだな。後は……」

 山本の言葉に、ようやく落ち着きだしたディーノさんが、まだ探していないんだろう場所を考え込む。その間に獄寺君が携帯を取り出して、何処かに連絡を取っていた。

 その間、十秒と経ってないんじゃないかと思う。

 思いのほか、すぐに状況は動いてくれた。

「――――ボス! 時坊が見つかりました!」

 ディーノさんの部下の一人。
 スキンヘッドの見覚えのある人が、廊下の奥から顔を覗かせた。

 勿論、その声を聞いたオレ達は、すぐさまそっちに走った。

 オレ達の前を誘導するその人を追えば、どうやら上の階に向かっているようだ――とは言っても、この建物はそんなに大きくはないから、二つほど階を通り過ぎたら、すぐに目的地らしい屋上に着いた。

 屋上に行く為の扉はもう開いていて、外からの光が視界を遮っていた。

 ディーノさんの部下に続いて外へと足を踏み出せば、色んな色をした家の屋根と、冬にしては珍しい、物凄く濃い色の青空が広がっていた。いきなり陽の光を浴びてしまったので、しばらく目の前がぼやけていたけど、段々とはっきりしてくる。

 目の前。
 青い空のど真ん中にいるみたいな、人影。

 真っ黒い髪しか見えない後姿だけど。
 それが誰だかなんて、確認しなくてもオレには分かった。

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