ⅩⅩⅩⅩ - 人皆旅人

◇ Ⅹ - ⅴ ◇ ⅩⅩⅩ ◇

「…………時?」

 なんでだか、恐る恐るになってしまった、オレの声。

 振り向いてくれるだろうか。オレの声が分かるだろうか。実は幽霊だったりしないかな。ちゃんと生きているのかな。随分寒そうな格好だから、もしかしたら、死んでて感覚が馬鹿になってるとか……

 ああ、自分で思うけど、馬鹿だなオレ。
 そんな事ないのにさ。時はちゃんと生きてるのにさ。

 馬鹿だよな、オレ。
 なあ、時――――

「――――あれ。天国にみんながいるや」

 振り向きざま目を丸くして、そう言った時の声が、妙に笑えた。
 自分が死んだと思ってやんの。時も時で、馬鹿なまんまだ。

「天国じゃ――――」

 ない。

 そう言いたかった。
 けど、声が突っかかってしまった。

 仕方がないと思う。
 だってオレの目にとんでもない“ヤツ”が映ってしまった。

 振り向いた時の、丁度向こう側。

 時に隠れて見えてなかったんだろう。その姿が見えた瞬間に、オレは背筋がぞっとした。きっと獄寺君達だってそうだろう。当たり前だ。だってアイツが時の傍にいたんだ。時を殺そうとしたアイツが――――

 ――――“アイツ”がどうして、時の傍にいるんだよ!

「時――――っ!」
「うん? あ、うん、じゃあ次は猫耳ロリババ様がいい」

 ずっこけた。
 オレの貴重なシリアスを返して欲しい。

 オレが時の名前を叫んだ瞬間に、時は何故だか、後ろの……自分を殺そうとしたはずの、黒尽くめのヤツと短いあっちらけな会話をしていた。なんでだか、分からないし、会話の内容もぶっとんだ時の方しか聞こえないし、ヤツはすぐに消えちゃったしで、判断のしようがなかった。

 けど……けど、とりあえず……

「時……もう大丈夫なのか?」

 話がしたかった。

「うん? ああ、あの黒いの? 大丈夫だよ。オレのサポーターになるそうな。しかも、オレの好きなコスプレたくさんしてくれるんだって。凄くない? つるぺた、イケメン、自由自在! 凄くない?」
「なんだよそれ」

 歩いてくる時との間には、まだ距離がある。
 だけど、声や言葉が、やっぱり時で……どうしようか。泣けてくる。

「ツナもなんかあったら言ってみなよ! きっとやってくれるよ!」
「いいよオレは」
「つまらん思春期だ。おいごっ君! 君オカルト好きだろう! グレイとかどうだ! ツチノコとか! ゴジラとか! イエティとか!」
「……るせぇよ」
「…………イエティ」
「……うるせえ」
「はは、いいじゃねーか! なんか考えとけよ獄寺!」
「うるせぇ!!」
「はは、いいじゃねーか。なんか考えとけよ、タコヘッド」
「てめぇら……っ!」

 獄寺君に軽くあしらわれて、しょぼくれる時がなんだか懐かしい。
 時と一緒になって笑う山本も、なんだか久しぶりな気がする。
 そんな二人に切れる獄寺君もやっと元気な獄寺君だ。
 
 なんだかな、嘘みたいだよな。
 ちょっと前までの、嫌な騒がしさが嘘みたいだ。

「……なあ、時。一個、言っていいかな?」
「いやだ」
「なんでだよ!」
「耳に痛いのはいやだ」
「あはは! 違うよ、そんなんじゃない」

 ただ、一個。
 どうしても、時の声で直接聞きたい事がある。

「なあ、時はさ……この世界に来て後悔してる?」

 お兄さんから聞いた。
 時があの時、とった行動。

 生きていたからいいけどさ、自分の世界でもない世界のために死ぬなんて、そんなに簡単な事じゃないだろう。この世界に来さえしなければ、こんな死ぬような思い、しなかったはずだ。

 正直聞くのは怖い。
 後悔してるって言われたら、かなり凹むと思うし。

 だけど、聞きたいのもまた事実だ。
 だから、どうせなら聞いてしまえ……なんて。
 ダメツナはちょっと頑張ってみたんだ。

「……そうね。そうだね。ちょっと後悔してるかな」
「……理由、は、聞いてもいい?」
「隠すような事じゃないよ。ただ……そうだな『こんなに知り合わなければ』……って、思っただけなんだ。知らなけりゃあさ。失くす怖さなんて知らないままでいられたわけだろう?」

『参ったよ』
 そう、少しだけ困った顔で、時は言った。

「……じゃあ、時は」
「いいんだよ、もうそんなの」

 声が遮られる。
 視界に入るのは、時の笑顔。

「オレは生きてる。みんな笑ってる。それでいいんだ」

 明確な答えは貰えなかった。
 後悔してるのかもしれないし、してないのかもしれない。
 随分、中途半端な答えだったように思う。

 だけど、突き詰めるのも、なんか違くて……

「……そうだね」

 時は笑ってた。
 空が眩しかった。
 オレの顔もきっと笑ってる。

 今は、それで十分。

 それだけでいい――――

12/05/13 *********************** Next Story.

Ⅰ〜Ⅹ(ⅩⅩⅩ)後書き
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