◆ Ⅸ - ⅱ ◆ Ⅹ ◆
――――並盛中学、一年A組、朝の教室内。
山さんが激怒した。
……じゃなくて。
「おおおお、落ち着け山さん!」
「落ち着いてられるかよ! こんなの……! 許さねー! 一体誰がやったんだ! 出て来いよ! オレがぶん殴ってやる!!」
教室内へと山さんに担がれて入った……までは良かったがしかし、オレの机を目にした山さんが怒ってしまって、教室はプチパニック。普段怒る事のない人が怒ると、なんと言うか、かんと言うか、その怖さ倍増と言うか、鬼に金棒、嫁に姑、ゴキに触覚と言うか。
いや、なんか、まあ、とりあえず怖い訳で。
眉間に皺寄せた山さんの顔に、教室内だけがジェイソンに襲来されたような雰囲気になってしまっている。だからオレは山さんを押さえるべく、教室入り口で、山さんの体に抱きついて止めている次第で。
わーお☆ ファンなら嬉しいハプニング☆
……て、いやいやいやいやいやいやいや。
笑えもしない。
そもそも、山さんが何故怒っているのかと言うと、その要因はさっき言ったオレの机にある。
教室の後ろのドアから入ったもんだから、教室最後尾奥にあるオレの机は自然とオレ達の目に入ってくる。そしてその机には、以前のように『落書きがされてる』とかではなく、残念な事に度合いがワンランク程アップして『机の上に花瓶を置かれている』という、ベターな、古い学園ドラマでよくある、ベターな、ベタベタ過ぎて、手を洗いたいくらいベタな嫌がらせが為されていた。
ぶっちゃけオレとしては、ちょっと嬉しかったりした。ちなみに、MかSかと聞かれたら、オレはS属性だ。M属性ではない。そんなMではない奴が、なんだっていじめを受けて喜んでいるのか。答えは簡単である。
だってだ、考えても見てくれ。こんな現実じゃ中々、起こりそうにない懐古的ないじめを体験できているのだ。そりゃあ、フィクションでなら、よくあるかも知れないけどさ。貴重体験なんだよ。ベラボーに貴重体験なんだよ。
だからオレは、ちょっと嬉しかったんだ。
机の上に花瓶だー! って、ベタないぢめだー! って。
この汚れ切った大人がこんな事で泣くかー! って。
あんなミスさえなければ、もっと喜んだ筈なんだよ、MかSかと聞かれたらSよりの時さんは!
「なあオレなら平気だからさ! ほら! オレってば心は腐った大人だから! このくらいで傷つく良心的な構造してないって言うかさ! だから落ち着いて山さん!!」
「そういう問題じゃねーだろ!? 性質が悪いんだよお前ら! 言いたい事があるならはっきり言えよな!!」
「いや無理だって! 言えないって! そういう年頃だって! て言うか待って山さん! ウェイト! クールに行こう! クールに! アレをよく見るんだベイビー!!」
「!?」
山さんを右手で制止しながら『ズビシ!』っと左手人差し指で背後にある自分の机を指差す。目標はオレの机に飾られた花瓶。そして『見た?』と頭上にある山さんの顔を見上げる。
「……見た……けど、花瓶置かれて……嫌がらせだろ?」
オレの言動にちょっと困った顔して、オレの目を見る山さん。
うん、OK、見たなら良い、じゃあ次だ。
「じゃあ、あの花瓶の花をよく見るんだ!」
オレの言葉に、山さんだけじゃなく、教室のクラスメイト全員がオレの机の上にある花瓶を見る。オレの良く分からない言葉に、山さんが落ち着いたので、体を離して自分の机へと歩み寄る。次いで皆の方へと顔を向けて、再び花瓶に指を刺す、今度は右手。
「そうだ。これは近年まれに見るベタな嫌がらせだ。『これは貴様への死の宣告だ。一週間以内にこれと同じ事をクラスの連中にしないと貴様に不幸が降りかかる』的な」
「「「うそ!?」」」
いやだ、信じた。
「……的な深い意味は、勿論無くて『お前は死んだんだよ』的な、嫌味を現す古典的な表現方法だ」
「あ……ああ……」
うんうん、ありがとう山さん。
て言うか時さん乗ってきた。
タコソン君は居ないのかね?
居ないんだね、残念だね。
気分が乗ってきたオレは、ホームズよろしく、名探偵な雰囲気を醸し出しつつ右肘に左手を添えて、なんとか任三郎ごっこ。
「そう、これは確かにそんな意味を持った花瓶だ。だがしかし、この花瓶をよく見て頂きたい……何か違和感を感じないかね?」
「……違……和感? ……えっと、花瓶に花がささって……????」
「うんうん山さん今度一緒に学園ドラマ見よう、ここテストに出るから」
「…………え!?」
「それじゃ……そこの何だかこっち見てほくそ笑んでる怪しい君、答えて御覧なさい。嫌だなんて認めないからね答えられるよな。馬鹿じゃなきゃ答えられるよな。あーお馬鹿だから答えられないか……っは(嘲笑)」
そう言ってオレが目を付けたのは、教室前方で何人かの生徒と束になっている少年。教室にオレが入ってから、オレを見てクスクスやっていたので、恐らく彼が花瓶を置いた人物だ。けど、そんな主犯格が虐めたいオレの言う事なんて簡単に聞く訳もなく『はあ?』って顔をしてきたので、畳み掛けるように『お前これ解けないほど馬鹿かよ』発言。
そうしたら、はは、ちょろい! ちょろいぞ! 並盛のMS(認めたくない年頃の)(少年)! 簡単に乗ってきやがったぜ!!
****************************** Next Page.
◆
ⅰ
ⅱ
ⅲ
ⅳ
ⅴ
ⅵ
◇ BACK ◇ NEXT
◇ TOP ◇ SITE TOP