ⅩⅨ - 人皆旅人

◆ Ⅸ - ⅵ ◆ Ⅹ ◆

 ――――勝負はお昼だ。


 ただいま並盛中昼休み。

 廊下は生徒達の喧騒で包まれ、みんなそれぞれ思い思いの行動を許された時間だ。オレ――白井時二十歳は、この時間を駆使して、ツナ達の暗い空気を取っ払おうぜ作戦を実行する事にした。

 ……と意気込んだオレは、少々レベルアップした中傷に包まれながら廊下にある銀色の手洗い場で手を洗い終わった所だ。この世界に来た時に持って来ていた、空色を基調にした和柄のマイハンカチ(だがその実態はミクちゃんカモフラージュなのだよ)で手を拭いて、手洗い場の上方にある窓に向かって無意味にガッツポーズ。

 それにしても、オレへの中傷もここまで来たか。

『やっだ〜、何で変態がいるの?』『変態だからだろ』
『つーか変態ガッツポーズしてるぜ?』『変態だからだろ』
『にしても、よく平気な顔して学校来れるよな〜』『変態だからだろ』
『変態だから神経ずれてるんだよ』
『変態だから馬鹿なんだろ?』
『変態だからアホなんだろ?』

 ていうか、変態言ってる奴同じ奴だろ。アカウント見せろ。

 中学生の邪気満載な言葉に、時さん耐えきれず傷ついた。手洗い場のシンクに体重を掛けて、この世の終わりのような、うな垂れ方で表現してみた。でも、人の痛みに鈍い年頃の中学生。止める気配はない。オレの心がシュワちゃんに救って欲しい様な、どん底クライマックスを迎えた。

(変態って何だ! 変態だからって何だ! いや変態かどうかと聞かれたら、変態だけど! 人類皆変態だって! 自分を正常だって言う人の方が怪しいって!)

 ……もう駄目だ!
 言い訳してる時点で駄目だオレ!

「…………はあ」

 自分の置かれている状況が流石にここまで来ると、疲れてくる。もう少しばかり中傷のレベルが高ければ、切れようもあるんだけどさ……いや駄目だよオレ、切れたら再来、あの頃のオレ。もう嫌だ黒歴史。みんなで消し去ろう、世界の黒歴史。


 もう嫌だ。黒歴史なんて、オレ知らない。
『それにしても』で、無理やり話題変えてやる。


 ああ、それにしても本当に、なんかオレの状況が悪化しているなあ。


 まあ、理由は理解しているんだけどさ。
 中傷の端々に聞こえる、『昨日』、と言う単語。

 その単語から連想できる事柄なんて決まっている。昨日、オレと雲雀恭弥閣下が遭遇した出来事の事だ。この町で起こった以上、しかもこの学校の風紀委員が動いたん以上、噂にならないと言う方がおかしい。そしてその噂は、オレに対して悪い方へ、としか広がらないはずで……。


 この現状悪化だ。


 自分の教室へと廊下を歩く間にも、飛んでくる飛んでくる、中学生の柔らかいゴム弾。『オレにもあったんだなこんな頃が』と、また黒ふがふがが再来しそうになったので『そう言えば』で意識を逸らす。


 ――――そう言えば、昨日の女の子はここの中学の子だったな。


 制服が並盛中の物だったのを覚えている。年の頃を見るに、同い年か一個上……って、勿論オレの外見年齢で、だ。後は……そうだな、オレの事を相当怖がってたな。今日は多分、学校には来ていないんだろう。両親はきっともの凄く心配して、オレをさっさと学校から追い出せ、とか言っているかもしれない。もしかすると、今オレの傍を歩いている女の子達も、気が気じゃなく怯えているのかもしれない。

 ……参ったもんだ。

 もしここで『オレの価値観ってさー、女の子はラヴじゃなくてライクだから』って、セレブ風に言ったら『きめえよ(小文字のダブリュー)黙れよ(小文字のダブリュー)』……って、笑われんのかなあ、と思ったり。

 ……襲ったりしないのになあ……いや、なんにしても襲わないけどさ。多分そんな事言っても『火消し乙(小文字のダブリュー)』とか言われんだろうなあ……ああああ。


 困った。


 なんて呟きながら尚も歩を進める。

 ぶっちゃけ、この町からオレがいなくなったら早いんだけれど、これだけ現状を掻き乱して、はいそうですか、と捨て置く訳にはいかないだろうよ。かと言って、オレがここにいたらみんなに迷惑がかかるし、女の子達には無意味に恐怖を与えるわけだし。


 ……どうすっかなあ。
 ……オレにしては珍しく、始終頭を動かしてるな。


『慣れない事はするもんじゃあないな』……なんて、首を捻ってばきぼき言わせようと、俯いていた顔を上げたら、目の前、真っ直ぐ続く廊下の突き当たり。左側に、上下へと続く階段の見える所。

 その場所に、オレの意識の全てを持っていく人間がいた。

 あれは、あれはそう――――

「――――オレっ!!」

 呟くよりも早くオレの足はそいつに向かって駆け出していた。

 昨日、強姦未遂現場で出会ったもう一人の“オレ”。一連の事件を引き起こしている、真犯人である“オレ”。オレをどうしてか嵌めようとしている“オレ”。

 駆けている内に何人かの生徒にぶつかって悲鳴が上がった。
 でも、謝っている暇は無い。謝るなんて時間を費やしている暇は無い。

 頭の奥が、きりきり、と軋む。
 許さない、逃がさない、容赦しない。
 衝動なのだろうか。衝動なのだろうきっと。

『かっとなってやった』なんて、何がかっとなってだよ、なんて思って聞いてたけど、なるほど確かに人間って言うのは、かっとなると、頭の中がぐちゃぐちゃになって、とんでもない衝動に駆られるようだ。

 とりあえず、落ち着けオレ。

「――――ぶっ殺してやるっ!!!!」

 オレのその言葉を聞いて、もうだいぶ近付いたソイツの口が、癇に障るほどオレと酷似した動き方で口角を持ち上げた。そして、音を出さずに動く唇。


 ――――やってみろ。


 オレへと言葉を吐き捨てたそいつは、階段へと消えた。
 勿論オレも、階下へ降りる足音を追った。

 ここでオレは冷静になるべきだった。

 冷静になって、ツナ達とか、閣下とか、とにかく誰かにすがるべきだった。でもオレは、昔からこんなやり方しか知らない。突っ走って、一人で背負い込んだ方が気楽だから、縋り方なんて良く分からないし、自分の問題に巻き込むのも嫌だし、だから――――


 ――――だからオレは、まんまと嵌められた。


 階段の先には“オレ”。
 その先には――――

 ――――くく。
 君が追う者。後ろの正面。
 さて一体“誰”なのかな?

08/??/??Re:10/11/05 ************** Next Story.

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