◆ Ⅸ - ⅳ ◆ Ⅹ ◆
――――お互いに、お互いの姿を目に留めているんだけど、なんとも言えない空気が漂ってしまって、何も言えずに双方固まってしまっている。
オレとしては、オレを避けるようにして早々に家を出たツナに、どう声を掛けたものか、という状態だ。多分にツナも同じ気持ちなんだろう。流石に山さんとごっ君が固まる理由は分からないが、それもおそらく、昨日の出来事が関係しているんだろう事は分かる。
オレ達の停止に、教室全体までもが嫌な空気に包まれる。そんな中で一番に声を上げたのはオレの首にヘッドロックかましたままの山さんだ。ガクブルしちゃうくらいに声が低かった。なんだこの中二。
「……よお」
少しだけ、いつもとは違う、その声。
怒気を含んだ時の声に似ているが、あくまで似ているだけで『怒っている』と言うわけではない声。よく分からない声の抑揚に、後ろにいる彼の顔を見上げる。
彼にしては珍しい、感情の無い表情があった。
「今日は結構遅いんだな……まあ、いいんだけどな。時と二人で登校ってのも初めてで新鮮だったし」
声を掛けたと言うのに何も返答しない二人に構わず、どんどん喋っていく山さん。その表情は、時々笑うものの、目が笑っていない気がする。山さんの顔だけを見ていても仕方がないので、今度は目の前の二人の表情を確認する為に、そちらへと視線を移した。
二人は俯いて、ばつの悪そうな顔をしている。その目は少しだけ歪められてて、時々こちらに視線を寄越していた。
「別に、ガキじゃねぇんだ、毎日一緒に登校なんてしなくてもいいだろ」
「ツナとは一緒に来たのにか?」
「そ……りゃあ、オレは十代目に右腕になる男だからな」
「……ツナは時より先に出たんじゃねぇのか?」
「あ……う、ん」
……気まずい。
山さんは歯切れの悪い二人に構わず、どんどん自分の意思を言葉にしていく。でもそれは、二人の行動を追求しているような感じがして、聞いているこっちがいたたまれない。
これが、青春の暴走か。
「……ま……まあいいじゃないか! 中学生だし、なんかロンリーしたい時もあるって!『俺の事なんてほっとけー』みたいなさ! ねっ?」
ものっ凄い気まずい空気が教室内に充満し始めたので、それを取っ払う為に話題をそらそうと試みてみた。そもそも、この空気汚染の原因は恐らく、いや確実に、昨日のオレに関する出来事であるから、オレがどうにかするのが道理だろうと思う。
ていうか、当の本人が全然気にしていないのは、誰も気にしないのか。
そりゃあ確かに、昨日の、その……ツナ達の目には、度肝抜かれたと言うか、豆鉄砲食らったと言うか、ミサイル投下されたと言うか、オタク心にかすり傷を負いはしたけれど……けどオレはもう、そんな事は吹っ切った。朝に少しばかり引きずってたけど、走った時にカロリー消化した。
だから、気にする事はない。
そういう意味で、言葉を発したんが。
如何せん山さんは、友達思いの野球少年。
火薬に火を着けてしまったぞ、どうしよう。
「時は優しすぎだ……っ! こいつらあからさまにお前の事さけてるじゃねーか!」
静かだった彼の表情が、怒ったそれに変わる。今にも、二人に飛び掛りそうな山さんを、彼の前にいるオレは体を反転させて、さっきのいざこざの時の様に制止する。
でも受け止めきれない。
だってオレは、ひ弱なオタク。
「い……や、気にし過ぎだって! それにそうだとしてもオレ気にしないし! オレの心、核にも耐えうる強度だから! 大丈夫だから!」
ごめん! 核は言いすぎた!
「だから、それが優しいって言ってんだって! こいつら……時が優しいからって平気な面してさけやがって! なんでんな事すんだよ!」
「……べ、つに…………別に! てめぇには関係ねぇだろぉが!!」
いやだ!
ごっ君も切れた!
『オレの手が足りない!』猫の手も借りたい、と思いながらに後ろをごっ君を振り返れば、こっちに近付いてくるガチマフィアボーイ。
目があ! 目があ!!
「好き勝手言いやがって! 別にさけてなんかねぇんだよ! そもそも、こんなチンチクリンさけるほどのもんでもねぇだろうが!!」
「またチンチクリン言う」
「嘘ついてんじゃねーよ! バレバレの態度取りやがって!!」
オレを間に挟み、互いの胸倉を掴んで戦闘体制に入るごっ君と山さん。 今のオレ、連邦のMSとジオンのMSに挟まれたボールな気分。
しかもオレには発言権が無いようだ。
オレの事なのに、オレの事なんかそっちのけで火花散らし始めるってどうなのよ。ツナなんか置いてけぼりではないか。でも顔が見えない。ツナのいる背中側が大変気になる。獄寺氏、怖い。
とりあえず、先に頭上の二人をどうにかせねば。
畜生、イケメンだからってオタクを挟み込みやがって。
オレの頭上で、オレの事そっちのけで、なおも口喧嘩を続ける二人の間で、身を縮こませながら、状況打開の策を模索する。けど、肝心な事を忘れていた。
『オレの頭にこんな状況ひっくり返せる策は考えられない』
色んなものが海の藻屑になって、状況はあえなく最悪の形――現状の核心に触れる事で、やっとの静けさを取り戻した。ただ、あまりいい空気とは言えないのが残念だ。
「そもそも、てめぇがしゃしゃり出て言う事じゃねぇだろうが! 本人がなんも言ってこねぇんだから、問題ないって事じゃねぇのかよ!!」
「時は優しいから、お前らに気ー使ってんだよ! そんくらい分かれよ! ……つーかっ! 聞けるわけねーだろうっ!?」
「…………あ゛?」
「『お前らはオレの事信じてねーのか』なんて、聞ける訳ねーだろ!!」
****************************** Next Page.
◆
ⅰ
ⅱ
ⅲ
ⅳ
ⅴ
ⅵ
◇ BACK ◇ NEXT
◇ TOP ◇ SITE TOP