◆ Ⅰ - ⅳ ◆ ⅩⅩ ◆
「あの……ちょっと、いいですか、草壁さん」
オレが突然声を、しかも自分に向けられたものを発したものだから、草壁さんの体が軽く跳ねた。オレの心臓も一緒に跳ね上がっている。
「その……なんと申し上げたら良いものか……」
「なんだ? どうした? 何処か痛むか?」
「いえその……痛いのはもうどうでもいいんですけど……その」
「なんだ?」
「草壁さん、後生の頼みです」
年下の君に頼むのもなんだけれど。「な、なんだっ?」
まだ若い君に言うのもなんだけれど。
「その……」
「……っ?」
「その……オレの頭を撫でては貰えないでしょうか」 「……………………………………………………は?」
草壁さんが気の抜けた『は』を言い放った。
「……頭?」
「はい」
「撫でるのか?」
「はい」
「……な、ぜだ? と言うかオレがか? 委員長ではなく?」
「はい、草壁さんです。閣下にされたら、もれなく首がもげます」
「分かった……が……何故俺だ?」
「その目が大変父親に似ておりまして、是非なでなでされたい」
「………………」
流れる沈黙が耳に痛い。
「父親に……か?」
「…………はい」
「……オレが?」
「…………はい」
「まだ中学生なんだが?」
「知ってます」
「………………」
「ごめんなさい」
「草壁さん、ほんとごめ――――」
下げた頭が上がらなくなった。「この歳で、こんなに大きな子供を持つ事になるとは思わなかったな」
声が染みる。「だがまあ……白井だけの父親と言う事なら、たまにだけ、買って出てやらん事もないさ。勿論少しだけだぞ。少しだけ」
言葉が染みる。「しかし、呼ぶ時は無論、俺の名前を呼べよ?」
手が暖かい。「俺の名前は、草壁哲矢だ。『父さん』なんて呼んだら許さん」
ああ……その眼。