ⅩⅩⅠ - 人皆旅人

◆ Ⅰ - ⅵ ◆ ⅩⅩ ◆

「そんな事を訊いてどうするの」
「え……いや」
「僕が『停学だ』とでも言えば、そのとおりにするの」
「え、や……そういうわけでは」
「そう逆らうの。咬み殺そうか」
「……え? え?」
「莫迦面」
「…………えぇ?」
「……お前は“アレ”を、ぶちのめしたくないの?」

 答えを求めて、他力本願なのが気に食わなかったのか、なんか責められているような気がして、かと思えば逆らうことはやはりダメなようで、とげとげしい声に身をすくめながら――

『ああ、怒られる』

 そう思っていれば、何時もの“馬鹿”が飛んできて。
 顔を上げれば、不機嫌な彼の顔が目に映る。

「何時も何時も僕の言葉に鋭くもない牙を向けていたのは誰だ。驚くほど弱いくせに僕の攻撃を妙な神経で避けていたのは誰だ。けなされてもけなされても僕に楯突いていた莫迦は誰だ」

 どこのどいつだ、その無謀者は。
 ……勿論、オレだ。

「まさか……僕が停学を進言したら、それにかこつけて逃げるわけ?」
「ま、まさかっ!」
「さて、その言葉もどうだか知れない」
「…………っ!」

 憤慨なのだ。
 堪忍袋の緒がほどけたのだ。

「――――逃げたりなんかしないっ!!」

 だってこんなの、怒らずにはおれないじゃないか。

 冤罪塗りつけられて、果たし状叩きつけられて、友達に嫌われて、馬鹿だ馬鹿だと罵られて、その癖ソイツは、のらりくらりと、逃げて笑って高枕。きっとオレのいる方に足を向けて寝ているに違いない。あまつさえ玄関にオレの写真を敷いて、毎日踏みつけながら高笑いしているかもしれない。

 ……腹立たしいっ。

「でも泣き寝入るするんでしょう」
「しない! 喧嘩上等! 全面戦争だ!」
「じゃあ君、停学ね」
「何故そこで!? 冗談じゃない! 誰がむざむざ停学なんてっ!」
「逃げるものか、喧嘩上等、停学拒否……中々の答えだと思うよ」

 そして残った、目の前の黒尽くめが満足そうに微笑んでいる姿。

「誘導されたっ!」
「うじうじ悩まれるのは目障りなんだ」
「べ……別に悩んでないっ!」
「だったらせいぜい奮迅してくれるかい。勿論“囮”としてね」

 憤慨だ。
 くやしい。
 ちくしょう。

 けど、でも……

「……何見てるの気持ち悪い」
「閣下ちょうかっこいい」
「草壁、そこの不審者に今すぐ睡眠薬を一瓶盛っといて」

 でも……嬉しいのも、また確かだった。

 結局、オレの中ではもう『どうしたいのか』は、決まっていた。
 ただ……不安だったんだ。これでいいのか。本当にこれでいいのか。

 何もしないのは癪だった。アイツの思い通りなんて冗談じゃなかった。一人でも何とかしようと思った。だけどオレは所詮ただの人だから、背中を押してもらおうと思った。草壁さんは押してくれた。大丈夫と思った。いや、実際、大丈夫だった。そのお陰でオレの出した答えは、確実なものになった。

 だけど、まだ、迷ってたんだろうオレは。
 だから訊いてしまった。頼ってしまった。


『オレは……どうなるんですか?』


 もう決めてたくせに、足をすくませて、びびっていた。
 それに気付いたんだろう彼も、眉間に皺を寄せていた。

 だから前へと蹴り倒された。
 なもんだから、進むしかなかった。
“オレの脚で”進まないといけなかった。


『お前がやらずに誰がやる』


 つまりは、それで良かったんだ。モブキャラだって戦意高揚させたっていい。モブキャラだってそれなりの人生を持っている。問題抱えて、夢を抱えて、格好良く駆け抜けたって構わないんだ。だってこれは、オレの人生なんだから。

 オレの脚で歩くべき人生なんだから――――

「オレがやらねば……誰がやる!」
「本格的に壊れたね。そういえばさっき、オイルが漏れただのどうの言っていたようだけど、それかな。草壁、オイルでも差してあげたらどう」
「貴様あ! 何故それを知っているうっ!!」
「うるさいよ」
「――――ごはっ!」

 ただ、その道が前途多難であるかどうかは、人それぞれなのである。
 ちなみにオレの道は、少しばかり前途が多難すぎるかもしれない。

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