ⅩⅩⅢ - 人皆旅人

◆ Ⅲ - ⅰ ◆ ⅩⅩ ◆

 無くしたからと言って、慌てるような事ではないはずだった。


 過去にも何度か無くした事はあったけれど、対処法を知っていたし、見かけのわりに頑丈な造りだったので、壊れるような心配もなく、何度か無くした時の自分を思い起こしても、慌てていたような記憶はない。


 ……ないと言うのに、今の自分は、どうした事だろうか。


 何時ものように、隠された制服をゴミ箱の中から取り出して、ふと、その事に気付いた瞬間にはもう、オレの頭は機能を静止させてしまって、対処方法も何も考えられなくなっていた。

 何故オレは、こんな慌てるほどでもない状況で混乱しているのか。
 何時もなら平気なこの状況をどうして冷静に見る事が出来ないのか。

 理由なんてものは勿論、分からない。

 分からないけれど、ただ一つ。混乱した頭でも、現状に対処しきれなくとも、ただ一つだけ、しっかりと理解できている事がある。

『腕時計は何処へ消えたのか』

 オレが慌てている原因だ。
 でも、慌てるほどの事ではないはずだ。
 ないはずだと言う事は分かっているのに、思考が上手く動かない。

『――――どうしたらいい?』

 何時もはどうしていたろうか。慌てる必要もなく、何か絶対的な対処法がなかっただろうか。今回みたいに、壊れたりしたらまずいと思って腕から外す事は多々あって、勿論何度か失くしてしまって……その時は?

 その時のオレは、どうしていたんだ。
 なんで思い出せない。どうして慌てる。

 落ち着け。
 落ち着け。
 落ち着け。

 制服を入れられていたゴミ箱には無かった。机の中にも、無い。鞄の中にも無かった。教室内に無いのなら、何処に行ったんだ。独りでに歩いて何処かに行ったとでも言うのか……

 いいや、そんなはずは、ない。
 そんなはずが、あってたまるものか。
 人為的な事だ。誰かの手によるこの状況だ。


 ああ……良く分かった。


 誰が何をしたのか、良く、分かった――――

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