ⅩⅩⅢ - 人皆旅人

◆ Ⅲ - ⅱ ◆ ⅩⅩ ◆

 時――白井時の様子が、どうにもおかしい。


 別に気にしてたとかそんなんじゃない。ツナを視界に入れたら、ツナの視線が時の方を向いてたから、反射的にその視線を追って、たまたまオレの視界にも時……白井が入っちまっただけだ。

 ツナはなんだかんだで、白井の事をよく目で追ってる。

 根が優しいからか、まだ白井の事を信じてるからか知らないが、オレや獄寺と話してる時も、笹川と話してる時も、とりあえず、何か他の事をしているどんな時でも、白井の方を良く見てる。

 だから今度も『ああ、ツナの奴また分かりやすくガン見してるな』ぐらいの気持ちでツナに視線をやって、特に意識するでもなくその視線を追って……

 ……別に、白井の事が気になったとか、断じてそんなんじゃないんだ。ただツナが見てたから、そんなにガン見するほど、面白いものでもあるのかと思っただけで……間違っても、白井が気になるとか、そんなんじゃない。

 違う。絶対に違う。
 だから今回も違う。

 ツナが着替える手を止めてまで、白井の事見ていたからだ。
 しかも何でか、オレと同じはずの獄寺まで見ていたからだ。
 仕舞いには、クラス中の視線が白井に向いていたから……
 だからオレも、気になって見ただけで……

「何やってんだ……?」

 だからきっと、口から出てしまったこの声にも意味は無いはずだ。

 なんでだか、白井がゴミ箱あさっていたから。
 続いて、自分の机に鞄にとあさって、停止したから。

 そのさまが、なんだか妙だったから。

 白井はよく、訳の分からない行動をとる。だけど今回はいつも以上に、様子が変だった。ゴミはとっ散らかしたまま、机から取り出した教科書やノートもそのままで、今は鞄の中をあさり終わって、立ち尽くしてる。

 教室中が白井を見ているんじゃないか、って言う状況の中、ようやく覚醒したらしい白井が、何処を見るでもなく、誰に言うでもなく、目的らしい疑問を呟いた。

「…………時計が無い」

 ……白井はどうやら、時計を無くしたみたいだ。
 時計と言うと――と少し考えて白井の左腕に目をやる。

 立ち尽くしたままの白井の左手首。
 男の癖に細いそこには、帯状の白い日焼け跡。
 そう言えばこいつのそこには、何時も腕時計があった気がする。

 確か、妙に古びていたような記憶がある。こげ茶色のベルトに、金縁で丸い文字盤の針時計で、中の細工が文字盤から少し覗いてる、骨董品みたいなもの。

 多分、白井が探してるのは、その時計だ。

 ……だからって、見つからないにしては、少し深刻過ぎやしないか?
 あんなに焦って……そんなに大事な物なら――――


 そこで、微かな笑い声が聞こえた。


 後ろを振り向けば、クラスメイトの男が二人。
 白井に嫌がらせをしてる奴の内の二人だ。

 嫌な笑顔を浮かべているそいつ等は、白井を見てほくそ笑んでいた。
『ああ、こいつ等がやったのか』……と、オレは冷静に思う。

 間違いなく、白井の時計を何処かに隠したのはあいつ等なんだろう。でも、だからってオレがどうこうする義理はない。白井はこんなくらいの事をされて当然の事をしたんだ。同情の余地はない。助けてやる理由も、思い浮かばない。

 ……そういえば、白井の本当の歳は二十歳らしいから、多分、こんな程度の事、一人でどうとでも対処出来るだろ。相手は中学生だ。きっとちょろいに違いない。

 大丈夫。
 問題ない。
 目をそらせ。

 そうやって、白井から意識を外す。

 前を向いて、途中で留めるのを放棄していたシャツのボタンを掛け始める。意識を外してしまえば、後は以外と白井の事を考えないのは簡単だ。少し前までは、上手く出来なかった。

 別に、白井が気になるとか、そういうんではない。
 ただ……いや、きっと、そういうんでは、ないはずだ。

 きっと、絶対。

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