◇ Ⅳ - ⅴ ◇ ⅩⅩ ◇
「最初見つけた時は、本当に死んでんのかと思った」
倒れてっし、動かねーし。
「駆け寄って声掛けても何の返事もない。そんで肩揺さぶったら、スッゲー冷たくなってんじゃん?」
もう駄目だと思った。
「冷たくて、冷たくて……」
時の暖かさが微塵も無くて。
「あのまま放っといたら、もしかすっと――――」
――――死んでいたかもしれない。
今一番、言いたくない、聞きたくない言葉から下唇を噛んで逃げ出す。
もしも、でも、そんな事言いたくない、音に出したくない。時は生きてる、ちゃんとすぐそこの部屋にいる。だからこんな事言わない、言う訳には行かない、言いたくない。言っちまったら、もしも、が、本当になりそうで、怖い。
口の中に留めた言葉を流し込む様に、またお茶を飲む。
ツナ達はオレが言葉を切った事に何も言わない。
だからオレも、同じ様に何も言わない。
こんな言葉は誰だって聞きたくない筈だ。
「……オレ達が、悪いって言うのかよ……」
獄寺が呟いた。
顔は窓の外を向けたまま、何を見てる訳でもないだろうが、視線をオレの方に向ける事無く、零す様にしてその口から言葉を紡いだ。謝罪みたいな、懺悔みたいな。でも何処か、自分は悪く無い、って、逃げてるみたいな。
そんな感じがした声だった。
「別に……誰が悪いとかじゃねーんじゃねーの?」
気休めじゃない、オレは本当にそう思う。
こういう事って、悪者なんていねーんだ。強いて言うなら、皆が皆、悪いんじゃねーかと思う。皆自分勝手に行動して、皆周りが全然見えてなくて。から回って、突っ走って、そんでこけて、気付いたら共倒れで。皆の行動が招いた結果だから、皆悪くて、皆悪くない。
オレはそう思う。
でも、獄寺は違うらしい。
オレの言葉はアイツにとって、生温い言葉だったのか。それとも、嫌味にでも聞こえたのか。それは分かんねーけど、アイツの眉間に皺が寄ったのは、間違いなくオレの所為だろう。
「誰も悪くないだなんて、そんな訳ねぇ……」
窓からオレに移された視線が、オレのそれと付き合わされる。僅かに向けられただけの顔だから、獄寺の目は前髪越しで、外人の血で滲み出てる緑色の眼に、同じ血で出た銀色の髪がその眼を掠めて、まるで別人の様に見えた。
「悪いのは……時、白井だけだろうがっ」
獄寺の口から覗いた八重歯が、一瞬だけ獣みたいに光る。その声も、さして大きくはない筈なのに、咆哮みたいに空気が震えた気がした。
「勝手に川で泳いで、勝手に凍えて、好き勝手して結果アレだっ。自業自得以外のなんだってんだよっ」
獄寺の言う事は間違ってない。
時は自分の意思で、川で泳いでいたんだ。オレ達に助けを求めた訳でもない。一人で何とかしよう、って……ある意味では身勝手なのかもしれない。
けどそれって――――
「……本当に、時だけが悪いのか……?」
――――それって、なんか違くないか?
時は確かに一人突っ走って、勝手にあんな・・・危ない状態になった。
確かに自業自得だ、他の誰にも責任はない。
……けど。
オレ達は知ってた筈だろう?
手を差し伸べられた筈だろう?
時が必死になって川で時計探して泳いでるのを知ってた筈だ。真上を歩いてたオレ達に気付かねーくらい集中してたのを知ってた筈だ。この寒いのに、それでも時計を探すのは、それがスッゲー大事な物だからって。
……“オレ”は、知ってた筈だ。
でもオレは、知っててどうした?
時の行動を無理にだって止められた筈なのに、腕引っ張って、もう止めろ、って声を掛けられた筈なのに、なのにどうして、それをしなかった? 時の体が、命が、危ないかもしれない、って、頭の中で理解してた筈なのに、どうして何もしなかった? どうして無視した?
時がオレに嘘付いたから、ムカついて?
嘘だなんて誰が言った……?
時が強姦魔だから、当然だって?
時はまだ否定してるのに……?
頼ってくんねーから、腹いせに?
頼られねー様に突き放したのは誰だ……?
……嗚呼……。
「オレも大概、勝手じゃねーか……」
獄寺に合わせてた視線を、机の下に延びる自分の足元に向けて哂う。
突然自嘲気味に笑ったオレを、変なモンでも見るような目で獄寺が睨みすえているのを感じた。
獄寺の言葉で考え始めた事が、何時の間にか、自分の事にすり替わっていた。そして突きつけられた、情けない、てんで情けないオレの心。
時が犯人だ、なんて思ったのは、オレがまだ心の底で時を信じてなかったからだ。あの日……時が女子を襲ってたあの日。時はオレに何か言おうとした、それは確か否定の言葉だった気がする。『違う』って言おうとしたんだと思う。オレは犯人じゃない、って本当の事言おうとしてくれたんだと思う。何を言ってもきっとオレ達は信じてくれるって、“信じて”くれたのに……。
オレはそれを押し潰した。
時のやってる事に、勝手にショックを受けたオレは、無下にそれを振り払った。あのまま聞いてたら頼ってくれたかもしれねーのに、聞く耳持たずに突っぱねて……。
――――……情けねー。
それにカッコわりー、だっせーし、ガキじゃんコレ。
背中を丸めて、目を両手で覆い隠す。
そうしねーと、オレん中の弱い物が今にも出てきそうだったから。
悔しい気持ちとか、悲しい気持ちとか、切ない気持ちとか。
なんか色んなモンが形になって、目から溢れ出しそうで。
「……時……っ」
気が付いたら、オレの気持ちは音になって溢れていた。
その刹那に、獄寺の首飾りの音と、ツナの声にならない声が、微かに耳に届いた気がする……。
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