ⅩⅩⅩⅤ - 人皆旅人

◆ Ⅴ - ⅱ ◆ ⅩⅩⅩ ◆

 ――――唐突、と言うか、なんと言うか。

 とりあえず、唐突な……偶然な出会い、ってのは、避けようにも思うように避けられないから困りものと言うか、なんと言うか、やんなってしまう。

「や、やあ、京子ちゃん……! ぐ、偶然だねっ!」
「う、うんっ。偶然、だね、ツナ君、獄寺君……時、君」
(……どもり過ぎだろ)

 学校で、朝にぐだぐだ話して、昼にもったり話して、放課後にひっそり話して、結論として『とりあえず各自の判断で対処しろ』的な、まるで前線の兵士に説く様な教えで、リボーン先生の“対・なんか良く分からない奴対策講座”は終わりとなり、部活の山さんを学校に残して、オレ達――ツナと愉快な仲間二人――は、学校に行きゃ誰もが最後にやる下校をしたのだが。


 したのだが、しかし、偶然は怖い。


 たまたま、お腹がすいたのでちょっと寄り道して帰ろう、という事になり。たまたま、目に付いたハンバーガーショップへと、誘われる様に立ち寄り。たまたま、空いていた席に、ふらりと座ったらば、何故だ。

 隣の席に京子ちゃんとハルちゃんが、いるじゃあございませんか。


 ……気まずい。
 実に気まずい。


 何故か――なんて、言わずもがな京子ちゃんは“オレに襲われた”という状況下にいる、いたいけな少女である為だ。勿論、そんな事をしたのはオレではなく、オレに化けていた“あの”美人さんなのだが……残念な事に京子ちゃんはそんな事知らないし、話したとしても、何の信憑性も無い話だから、逆に怪しい事この上ない。

 ただ、ツナから聞いた話によると、京子ちゃんとハルちゃんは、どうやらオレの事を信じてくれているらしい。オレを信用する要素が皆無な状況で、こんなオタクを信じてくれるだなんて、嬉しい限りなのだが……何と言うか……それでも、怖いものは怖いのだろう。

 普通を装おうとしている京子ちゃんを見るのは、少々辛い。

「え、えっと……ふ、二人はなんでここにいるの? か、買い物?」

 ツナが空気を和ませようと、何気ない話題を振る。
 でも、言葉が詰まっているので……如何せん。
 しかし、感謝だ。

「はひ、そうなんですよ! 今日、そこのお店でセールをやるとの話を聞きまして、これはエンジョイせねばと思い、京子ちゃんを誘ってきたんです! ね?」
「う、うんっ」
「でも、お兄さんにお家をキープアウトされていたので、最初はダメかと思ったんですけど、たまたま、リボーンさんのお知り合いが通りかかりまして、ボディーガードをやって頂いたんです!」

 そう答えたハルちゃんの視線を追って、店の外を見れば、セールの張り紙がされている洋服店と、真っ赤なポルシェ……ではなく、真っ赤なフェラーリに乗った、どっかで見た事のある、ナウでヤングでイケメンの金髪なイタ公が、こちらに向かって手を振っていた。ハルちゃんが、にこやかに振り返す。

(イタリア人が日本の女子中学生をナンパして、にゃんにゃん……!?)
(違うだろっ)
(……アホか)

 オレの呟きにツナとごっ君が呟き返して、やっと緊張が取れた感じ。

 ちなみに、ナウでヤングな以下略……ディーノさんの事を『ボディーガード』と言う、ハルちゃんの主張はあながち間違っていなかったりする。むしろ、その辺りは意図的だったりする対策だ。

 相手方が了兄さんを重要な役として選んだのだとすれば、その妹である京子ちゃんにも何らかの手が下されるかもしれない……との事で、リボーンが早々に対策を打ったのだ。ディーノさんも忙しい筈なのだけれど、大丈夫なのかキャバッローネ。

「しかし、恥ずかしげもなくスーパーカー乗り回せるイタリア人の根性って、中々どうして大したもんと言うか、日本人には絶対真似出来ないね」
「うん……うん? ……スーパーカーって何?」

 ……あんだって?

「……いやだな綱吉君、ディーノさんが乗ってる車の事だよ」
「へー」
「……十代目、あれはフェラーリです」
「……え?」
「……そうだけど、スーパーカーとも言うんだよ」
「はわ〜、スーパーなカーですか」
「やっ、ハルちゃん間違ってはいないんだけど、ニュアンスが……」
「フェラーリだ」
「おのれ黙れごく潰し!」
「あ゛あ!? もっかい言ってみろ、誰がごく潰しだ!」
「ぐわ! ごめんなさい! 勢い余って間違えたっ!」
「ふざけ――――」
「――――きゃっ!」

 勢い余って“ごく”繋がりの『ごく潰し(意味:飯を食うだけで、何の働きもない人)』を、ごっ君に向かって叫んだら、当然だけれど、胸倉掴まれてしまって、そこまでなら良かったけど、捕まれた衝撃で、机が揺れて、ジュースが零れて、京子ちゃんの服を汚してしまって……あああ。

 オレの阿呆、馬鹿、役立たず。

「ああ! ごめんね京子ちゃん! ごっ君服貸せ!」
「何する気だ!」
「服で拭くんだよ……って、何言わす気だっ!」
「……てめぇ、もう、ちょっと黙ってろ……っ」

 怖い。何が怖いって、不良に成りすましたマフィアが怖い。

 何をとち狂って、獄寺さんの服でジュース拭こうとしたのか……いや、単に焦っていただけで、人間には良くある行動だ……だからってなんだ。

 とにかく、焦り過ぎているオレを見かねた……訳はないのだろうけど、獄寺さんに、口、って言うか顎押さえ込まれて、何とかオレも落ち着きを取り戻せた。

 何時もはこんな事で、こうまで焦る事はないのだけど、考えるに『京子ちゃんの傍にいる』と言う状況が、気にはせずとも、意外とプレッシャーになっていたのかもしれない。勿論、それは京子ちゃんも同じだろう……ああ、いや、京子ちゃんの方が、もっと大変な筈だ。

「……ご、ごめんね……京子ちゃん」
「あ、う、ううん! 大丈夫だよ! 洗濯すれば、だ、大丈夫だからっ」
「そうですよ時さん、洗ってしまえばノープロブレムです!」
「そ、そうだよ時! オレだってよくやるし! はは、参っちゃうよな」
「……う、うん……でも、ごめん」
「………………………………っは」

 ごっ君に顎掴まれたまま京子ちゃんに謝っていれば、何やらオレへと嘲笑っぽい、でも楽しんでいる訳ではないそれを吐き棄て、顎を離しなさった獄寺氏。そっぽ向いてしまったので、その事については謎な訳だが……多分、十代目を京子ちゃんに取られたので、拗ねているのだろう。

 ふはは、愛い奴め。

「……死ねよ」
「……そんな事よりツナ、オレ先帰るね」
「え……な、なんでだよ! 一人で行動するなって言われてるだろ!?」
「いや、その、ごめん! こんな時にマジでごめん! 今日見たいアニメがあるの、すっかり忘れててさ! ホントごめんねこんな時に! でも見たいの! 凄く見たいの! 貴重な萌えなの! それにディーノさんの部下さん一人借りて行くから、大丈夫大丈夫。一人で帰らないから大丈夫」
「……あ、うん。なら……大丈夫か」
「……綱吉君は娘が出来たら門限が厳しい親父だな」
「何の話だよっ!」
「絶対に娘を作るんだよ……と言うわけで、オレ帰るね。京子ちゃん本当に、ごめんねっ! 今度、なんか服買ってあげるからっ! じゃあ、みんな、ばいにーっ!」
「あっ、時君……っ」

 最後に京子ちゃんへと謝って、店を後にする。

 食べ忘れていた、ハンバーガーとポテトが非常に心残りだが、ツナなら持ち帰ってきてくれそうなので、まあ、安心だ。でも、ポテトは冷めると不味いので、加工して食わねばならぬ。それはそれで乙だが。

 しかし、それもこれも、仕方のない事だ。

 あのまま、オレがいては京子ちゃんが滅入ってしまう。
 そんな、京子ちゃんは見たくない。京子ちゃんは笑って何ぼだ。
 女の子と言うのは、華なのだ。しおれさせては、いかんのだ。

 その点オレは、そこそこ屈強だし、オタクだし。
 だから、大体、大丈夫。

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