◆ Ⅴ - ⅲ ◆ ⅩⅩⅩ ◆
「女性を気遣うのは当然の事だよルーク。英国紳士としてはね」
「トキ坊、残念な事にオレはイタリア人で、ジェンナーロだ」
「いやだな、ジョークですよ。ジャパニーズオタジョーク」
「そうかそうか、ま、無理はすんなよ」
「本当に大丈夫なんだってば! オタクって繊細だけど屈強だから!」
共に並盛町の住宅地を歩くのは、スキンヘッドが眩しいディーノさんの部下――ジェンナーロ氏だ。ツナ達と別れた後に、ディーノさんへと頼んで一緒に帰ってもらっている。三十過ぎの強面な顔に、黒スーツが良く似合ってらっしゃる。
ちなみにジェンナーロ氏。オレがランボの手榴弾でぶっ飛んだ際に受け止めてくれた、あのお人だったりする。その後、リボーンの強制フルボッコ(修練)を受ける為に渡ったイタリアにて再会して、そこそこ、仲良くなっていた、という経緯だ。
「あ、そうだ、ジェンナーロさん。京子ちゃんの周りで、なんか変な事とか起こってませんか? 不審なオレっぽいのが出たとか」
「ん? ああ、今の所ないな。ボスに言われて交代で付いちゃいるが、何の音沙汰も無しだ。もっとも、ロマーリオさんの話じゃ小細工出来放題な奴らしいからな……見落としてるかもしれんが」
「あ、はは……」
小細工出来放題とは、よく言ったものだ。
確かに、あれは卑怯なくらいの超能力だ。本やゲームの中の魔法にだって、そこそこ制約があるというのに、奴の使う……なんて言ったらいいか分からないけど、とりあえず“あの”異常な力は加減を知らない。
別の人間に成りすませるわ。人の記憶弄れるわ。宙に浮けるわ。壊れた物復元出来るわ。閃光は降らせるわ。閣下従わせるわ……これ以上の事も出来そうで恐ろしい。既に、存在が異常だ。
でも……そんな、いっそ卑怯な力があるのに、なんでオレにさっさと手を出さないのか? 実の所、一番の疑問だったりする。
「ああ、それはボスも言っていたな」
何故だろう?
口に出してみれば、ジェンナーロさんがそう言った。
「ディーノさんもっすか」
「ああ。勿論、リボーンさんも言っていた。『何故さっさと手を出して来ないのか疑問でならない』ってな。俺としては、狂った殺人犯みたいに追い込んで快感でも得てんじゃないか、と思うんだが……」
「ううわあ、ぞっとするっ。やめて下さいよ、ジェンナーロさんっ」
我が身に降りかかるとなると、ホラー映画よりぞっとする。
「にゃー」
馬鹿みたいな展開で、目の前に黒猫が飛び降りてきた。
額に三日月ハゲがあるような、愛らしい猫ではない。ただの黒猫だ。
「……これでオレ死んだら、ジェンナーロさんの所為にする」
「おいおいっ。黒猫程度で騒ぎ立てるな」
「だって――――」
と、畳み掛けるように足への引っかかり。
馬鹿みたいに連続する不幸って、ちょ、おま。
「――――あ……紐ほどけてる」
……不幸の連続だと思って、足元を見たら、とんでもない早とちり。
オレが自らの足で、自らの靴紐を踏んでしまっているだけだった。
そりゃあ、ほどけもする。
「……ちょっと、すみません、ジェンナーロさん……」
「はははっ。何やってるんだトキ坊。また、びくついてたな」
先行くジェンナーロさんを引き止めてから、身を屈めて、ほどけた靴紐を結びにかかる。頭上からからかい混じりの笑い声が聞こえて、少々居た堪れない。いや、でも、日本人はなんやかんやで迷信深いから、習性と言うか、DNAに刻み込まれた本能と言うか……いいじゃないか、迷信を半信半疑で生きてたってっ。
「……お待たせしましたジェンナーロさん。別に靴紐が切れたとか思ったわけじゃないんで、別にちょっとびびったとか全然ないん――――」
――――ですよ、別に。
そう、言い訳を続けようとしたオレの声は、あっけなく止まった。
ついでに言えば、思考回路も同時に止まったと思う。
「……ジェ、ジェンナーロさん?」
ジェンナーロさんが、いなくなった。
「い、いい大人がかくれんぼかにゃ〜っ? あははは……は、はは」
以前、ニュースの記事で、イタリア首相がドイツ首相相手にかくれんぼ仕掛けた、ってのを読んだから、もしかしてイタリア人は、かくれんぼが好きなのかにゃ〜? ……なんて、現実逃避だ勿論。この場所に隠れる場所なんてない。精々が電信柱だが、ジェンナーロさんの体格では納まりきらない。
先に行ってしまったのか? なんて考えもすぐに切り捨てられる。
目の先にある十字路は、走って二十秒ほど先。
また後ろにあるそれも、同様の位置にある。
さあて、ジェンナーロ氏は何処に消えた?
「……こ、これれは独りになったっていうか、独りにさせられたっていうか、だからオレ悪くないよね。悪いのは、全部“アイツ”だよね……っ」
決して責任転嫁ではない。事実だ。
事実あいつの所為で、こんな事になっているに違いないのだ。
だけど、この際、責任云々なんてどうでもいい。
今考えるべきなのは『この後どうするか』だ。
今日学校で散々『勝手にうろうろするな』『勝手に動くな』『動き回るな』と言われてきたので『やはりここはじっとするべきか?』とは思う。
ただ、辺りはもう暗くなってきているので、これ以上こんな、街灯も少なく道幅も狭い、逃げにくい事この上ない場所にはいたくない。
(と……とりあえず、ジェンナーロさんを探そう)
動こうが動くまいが、結局はもう独りなので、だったら、行動した方が懸命だろう。もしもの時は、この、自慢の逃げ足を酷使して、地球の果てまで逃げ延びてやる。
……まあ、一応、護身用として、と言うか、キャバッローネ組に頂いた自動式拳銃が鞄に忍ばせてはあるのだけれど、ははは、待て待て、ここは日本国だ。銃砲刀剣類所持等取締法(じゅうほうとうけんるいしょじとりしまりほう)、略して銃刀法があるのだ。町中でぶっ放してもみろ、強姦未遂(冤罪だけど)に銃刀法違反も上乗せだ。
冗談ではない……!
(なんとしても、拳銃など使うものか!)
とにかく、ジェンナーロさんを探すのが先だ。
そもそも、必ず何かが起きるとは限らないのだから、そう構える事もないだろう。こういう時こそ、気楽に、前向きにいかなければ、いざと言う時に、身動きが取れなくなってしまう……ような気が――――
『――――けて』
……気……が、したんだが。
壮大に忘れていた。
向こうは、オレが動けようが、動けまいが、構わないんだ。
動けなければ、動けるように仕向けるし、その逆もしかり。
オレの事情なんて、そっちのけ。問答無用で、事を推し進めてくる。
ああ、何時だって、そうだったじゃないかっ!
「――――京子ちゃんっ!!」
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