◆ Ⅶ - ⅱ ◆ ⅩⅩⅩ ◆
うまくは言えない。
ただ、理屈なく信用できる人間だった。
元から言葉で説明などできる性分ではないので、感覚的な話になるのはいつもの事なのだが、この感覚はなんと言おうか、直感でもなく、野生の勘の類でもなく、本能……いや、本能ではない。だが、本能に近い何かだろう。
その俺の中にある、本能に近い『何か』。
それが、奴――白井時は絶対に信頼できると、断言した。
妹の京子に話を聞いた時は、ただ『大物が現れた!』と、歓喜しただけだった。願わくば、沢田と共に我がボクシング部へと入ってくれないものか、とそう思っただけだった。
だが、あの日、あの時、あの場所で、奴を初めてこの目に留めた瞬間。
そんな浅はかな考えは、全てが全て、吹き飛んでしまった。
言葉で説明できる事ではなかった。奴が漠然と持っている、雰囲気なのか、なんなのか、俺では説明のできない、その『何か』は、奴を目に留めた瞬間、確かに俺の心を奮わせて、疑う余地のない信頼を確実なものにした。
理屈ではない。
ただ“そう”であっただけのそれを信じた。
いつも以上に強い、確信めいたその何かを信じた事に後悔はなかった。
それでも募るこの後悔に、俺は俺自身をぶちのめしたい。
最初は、見知らぬ女生徒だった。俺の目の前で、白井が女子を組み伏せていた。助けを求めるその女生徒は、酷く怯えていた。気が付けば、白井の顔面へと拳を振り下ろしていた。
その時は、自分を叱咤した。
白井は何かを、俺達へと言おうとしていたのだ。恐らく、否定の言葉だろう。きっと何か事情があったに違いない。せめて、白井の声を聞いてから判断しなければいけなかったのではないか……そう思った。
だからこそ、謝罪しに行った。
『痛かっただろう』『殴ってすまなかった』『話を聞かなくてすまなかった』きっと、あいつはそれを笑って許すのだろうなと、苦笑しながら、奴が居ると聞いた空き教室へと向かった。謝罪する為に、信じる為に、信じたいが為に。
だが……もう、駄目だった。
今度は、京子――妹が倒れていた。
また何か言おうとしていたが、もう聞く耳は持てなかった。当然だ。妹だ。家族なんだ。大切な妹なんだ。その妹が、苦しそうな顔で倒れていたのだ。以前に女生徒を組み伏せていた男の前で、床で気を失っていた。
信じようとした事を、後悔して、当たり前の状況ではないか。
妹を守れなかった。
怖い思いをさせてしまった。
二度と泣かせまいと誓ったのに、泣かせてしまった。
……後悔しても、しきれなかった。
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