◆ Ⅶ - ⅳ ◆ ⅩⅩⅩ ◆
血の匂いと、古い鉄の匂いが鼻に付く。
並盛町の外れだろうか、俺も知らない随分古い建物だ。
工場か何かだったのか、所々に使い捨てられた複雑な機械の陰が見て取れる。だが、それがどういった作業をする機械なのかは、俺にはよく分からない。もっとも今俺に重要なのは、この建物の過去ではなく、いかにこの状況を改善するかにあるので分かろうとも思っていないのだが。
肌がざわめく。
先ほどより、より一層。
相手方は、俺がここへ来て間もなく、姿を消した。何もこの場から離れたわけではないはずだ。姿は見えないが気配はある。だが、この空間一面に気配が広がっている異様な状態だ。油断はできない。
「――――……ふう」
拳に厚く巻いたバンテージが軋む。
背中にある人の気配が、俺の士気を高揚させる。
辺りに漂う血の匂いが、怒り狂いそうな俺の感情を、刺激する。
「…………すまなかった」
「…………え?」
反応が鈍い。
声も薄い。
血の匂いが胸を締め付ける。
「俺はお前を傷つけた。体も……心も」
「……え? や、だいじょぶ」
「いや。いい。喋るな。すぐに終わらせる」
「いやっ、だめだっ。アイツは普通じゃないっ、早く逃げないとっ、京子ちゃん達もいるんだっ、アイツの狙いはオレだが――――痛っ!」
ほら。見ろ。
こいつは、こういう奴じゃないか。
こんなにも分かりやすい奴なのに、俺はとんだ馬鹿だ。
ああ、本当に、俺は馬鹿だ……
「大丈夫だ」
黒髪の頭に手を置けば、白いバンテージに赤い染みが付いた。
それでも手には、暖かい体温が伝わる。確かにこいつは、生きている。
「安心しろ白井。俺が全員守り抜く。ここで命を懸けられないとあったのでは、男として産まれた意味がなくなってしまうからな…………だから、許せ京子。兄ちゃんは約束を破る事になりそうだ」
白井の背後に見える扉へと、言葉を投げかけるが、返答はない。
だが、兄弟故か。小さなささやきが耳元で聞こえた気がした。
「では――――」
「――――やろうか」
振り返れば、女がいる。
空には、満月。
背には、大切な存在。
目の前には、本能が奮い立つ強敵。
……ああ、まったく。
笑っている俺はどうかしているな――――
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