Ⅷ - 人皆旅人

◇ Ⅷ - ⅱ ◇

 世界が静止した。
 と言うのは、いわゆる、こういう状況をさすんだろうなと思う。

「………………」

 綱吉公が声にならない声を上げている。
 俗に言う『絶句』ってやつでした。
 ちなみに獄寺氏からは、彼らしからぬ哀れみの言葉。

「……なんだ、その、短い命だったな。まあ……あれだ。さっさと成仏しろよな。テメェの事……そんなに嫌いじゃなかったぜ」

 ははは、まじでか。嬉しいな、はは。
 …………いやいやいやいやいやいや。

「……ひ、雲雀……。ちょっと落ち着けよ? な?」

 ああ、まいったな。
 何事にも大体動じない、山本君が動じてるよ。

 絶望した。現状は理解してしまった時点で、見えてくるのは絶望以外の何ものもなかった。だから三人がそんなんなっているのも分かる。周りの見ず知らずの生徒が不振なオレに哀れみの目を向けるのも分かる。今この場の空気が、絶対零度よろしく、凍りつきそうなのも分かる。オレは結構KY人間ではない。



 もういっそ、この現状から、目をそらせたらどれだけ良かったか。



 至極、説明したくはないが、現状はこうだ。

 雲雀恭弥閣下に肩を掴まれたオレは、唐突な出来事に驚いて、左肩に乗せられていた閣下の手を、思いっきり振り払ってしまったのだ。そこまでならまだ、半殺しくらいで済んだだろう、嫌だけど。



 ――――そして事は、その直後に起きた。



 勢いつけて閣下の手を振り払ったオレの左手の甲が、あろう事か……。

「ワオ。結構痛いね、これ」

 裏拳……ってやつですか?
 ええ、それはもう見事に閣下の左頬へヒット。
 白井時、二十歳にして死去。しかも、別世界で。


 ………………。


 ……ふははははは(お腹の底から)!
 未練なんぞを残してやるものか!
 もうこうなりゃあ、ヤケだ!
 ヤケクソにヤケクソの上乗せだ!

 涙目になって放心していた――心の中で気狂い起こしていた――絶体絶命のオレを、なんとか立て直そうとするツナが、気がつけばすぐ傍にいたけれど、ツナが声を発しようとした瞬間に、時さん覚醒。リミットブレイク。

「――――……ああ、ああ、謝るよ! 謝るけどね! オレ、悪くないからね! 悪いのはヒバリーであると思うわけでさ! 嫌だって言ってんのに、追い駆けてきたヒバリーが悪いんだと思うわけでさ! だ、だから? 殴られるのも自業自得っていうかっ? 痴漢に肩掴まれた淑女を追っかけちゃったみたいな? 二兎を追っかけちゃったもんだから、一兎に裏拳かまされたっていうかっ?」

 反論、と言うよりも、言い訳、と言った方がいいであろう、言葉をひっちゃかめっちゃかに並び立ててみる。ちょっとだけ驚いたような顔になる雲雀恭弥陛下、ざまあだ。

 ただ、自分の置かれている状況に、とち狂って、普段呼び慣れている愛称呼びになってしまっている事には、流石に気付いて置けば良かったと思う。ちなみに、周りの野次馬勢は、現状と、その呼び方にも気付いたのであろう。ツナを含む一般生徒達全員が青ざめていたりした。

 そして、止められない超究武神覇斬。

「そもそも、並盛の皇帝だかナンだか知らないけど、ちょっと横暴すぎなんではないかと思うわけであって、いやちょっと所じゃねぇよ、貴様は何様か、神様か、仏様か、お天道様か!? いやいや、皆まで言うな分かってるよ雲雀恭弥様だよ、分かってるんだよ、分かってはいるんだ、分かってるから怖いんだよ、認めたくないんだよ、半端無いんだよ、歩く呪いなんだよ、不可能を知らないナポレオンも吃驚して、一個師団動かしちゃうよっ」

 はは、オレ意味不明。

「というか、これは流石に言い過ぎかもしれないけど、君は存在がどうかと思うわけなのだよ! 『僕は好きな学年を選ぶことが出来るんだ。ははは(声真似)』なんだそれっ! なんかもう、ヒバリーが言ってるだけで文化遺産級のジョークになってんじゃねーか! 笑いは欠片もないけれどもね! ああ、そうだ、いっそ人間国宝にでもなってしまえばいいんじゃないかな! 『並盛の皇帝』っていう体でさ! そんで、皇帝らしく応接室で踏ん反り返ってさ、大好きなハンバーグ突つきながら、時々寝こけながら、時々命令下しながら、どどーんとそうしてたらどうかなヒバリーヒルズっ! そしたら世界も安泰で、一般人うっはうはで、オレ的にも、ざまあみさらせ! みたいな――――」
「……ふうん」
「…………」

 すっきりしたような、うん、魂まですっきりしたような、そんな感じ。
 もう、ツナ達は三途の川の岸辺まで行ってるんではないだろうか。

 でも、もう悔いはない。やってないゲームとか、見てないアニメとか、読んでない漫画とか、あるけれど、その辺りは、もう無理っぽいので諦めるしかない。

 さあ、閣下。オレの首を取りたまえ。洗ってなくてすまないが、許してくれ。せめて首塚は作っくれよな。でないと呪っちまいそうだから……いや、呪えるなら、それはそれで……良い趣向だ。はは。

「………………」
「………………」

 ……トンファーが来ない、だと?

 不審極まりない、間に、背けていた目を対称――雲雀様に向ける。
 目が合った。
 睨・み・殺・さ・れ・る。

「君。何でそんな事まで知ってるの」

 な、何か国家級の機密情報でも漏らしてしまっただろうかっ?

「……ハンバーグ」

 ……国家級?

「……ハンバーグ?」
「……とぼける気?」

『ハンバーグ大好き雲雀さん』の、オレのオタ情報が正しければ、間違ってはいないはずだ。それに、周りにいた大きいお姉さんと言う名のオタク友達だって、その事に対して何かアクションを起こしていたような気がする。

 ……気がしていただけか?

 頭の上で、クエスチョンマークとハンバーグを量産するオレ。そして、そんなオレを黙って見つめる……いや、眼光鋭く睨む、雲雀恭弥閣下様。降りた沈黙の間は、大よそ数秒。その間に、どういった作用が働いたのかは、分からないが、とりあえず。

 この世で最大であろう、危機の回避にオレは成功できたらしい。

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