◆ Ⅰ - ⅱ ◆ Ⅹ ◆
……鐘の音だ。
闇の中で、ゆっくりと違う音程を刻むそれは、ひどく懐かしい感じのする音だった。急がなければいけないような、けれど何処か開放感のあるような、不思議な音だ。
それが聞こえなくなると、次は、人間の声が聞こえてくる。
さっきの鐘の音に比べて随分と騒がしいが、悪い気はしない。
多分、それらの声に、何処か安堵した色があるからだろう。
ああ、なんだか、この雰囲気は、とても落ち着く。
「……おい」
声だ。
不機嫌な男の声。
「…………おい」
また同じ声だ。
もしかしたら、オレに呼びかけているのかもしれない。
きっと、勇者になって魔王を倒す為のフラグなのだろう。
「ううむ、それはやはり甘んじて受けるのが正しい選択……」
ゆっくりと、思い瞼を持ち上げる。
暗かった視界に光が入って、一瞬何も見えなくなるが、だんだんとぼやけた景色が鮮明になる。目の前には木製の天井。体の上にはふかふかの羽毛布団。聞こえてくるのは、パン屋さんの声だろうか。母親が呼ぶ声もする。傍らには、幼少の頃より使っていた両刃の剣が……
……ねえや。
「あれここ何処?」
「学・校・だっ!」
ごん――って、ぐあ! 奇襲だ! 魔王の奇襲攻撃だ!
って、嫌だ! この魔王、獄寺さんにそっくりだ!
っていうか、獄寺さん本人だと!?
「十代目の馬鹿野郎!」
「あ゛あぁん!?」
ああああ、本人だ! 確認するまでもなかった本人だ!
「おおい、獄寺さん! あんた何オレの大切な頭部叩いてくれての!」
「初日から授業中爆睡なんかして、やる気あんのかてめぇ……!」
「は?」
眉間に皺寄せて睨んでくるごっ君に対抗して、同じような顔で考える。
授業?
……授業?
………………。
……ああ。
と、そこまで思い至り、やっと自分の置かれている状況を思い出した。
オレ白井時、精神年齢二十歳、外見年齢中学生は、只今、並盛中学校一年A組にて、人生二回目の中学校ライフを満喫している所でありました。制服なんかも指定シャツじゃなくて、借り物だけど、気に入ったものを着込む、という気合いの入れようだったのに、寝こけて記憶飛ばすなんて。
――――こんの、うっかりさん、め☆
舌出してどじっ子少女の雰囲気を醸し出したら、またもごっ君に頭はたかれた。確かな殺意がこもっていた事を感じ取った。オタクへ対する、不良の殺意ではない。オタクへ対する、マフィアの殺意だ。
冗談ではない!
と言っても、既に受けてしまった、攻撃と殺意と痛みだ。受けてしまった以上、もうどうしようもなく、はたかれたオレの頭は剥がした筈の机に逆戻り。やっとの事、数学と言う名の子守唄で頂いた安眠から目覚めたというのに、また眠り体制だ。って言うか、起こしたのごっ君じゃねぇか。なんだこの矛盾は、もっかい寝ろってか、永眠しろってか、マジで寝ちゃうぞ、昼休みだしマジで寝ちゃうぞ?
机にへばり付きながら、ごっ君の行動にぐちぐち、うんうん。
してたら眠り効果発動。
何分オレの机の位置は、教室一番後ろの窓際、と言う、素ん晴らしいスリープ領域なのだ。しかも追加効果と言わんばかりに今日の天気は、真っ青晴天。オレの初登校を祝うかの様に、お天道様が輝いて、季節は冬だと言うのに春の様な陽気を醸し出してる。
このベストシュチュエーションで寝るなと言う方が無理難題じゃんね?
……と、一通り眠りの為の言い訳を自分の頭に巡らせたオレは、意思の赴くまま瞼を閉じる。机の右斜め前にごっ君の気配を感じながら目を瞑ったらば――――彼奴が動く気配!!
これは――――ど突かれる!!!!
「寝んじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
突っ伏していた体を勢い良く起こして、前方より振り下ろされる手刀を補足。その速さ、秒速いくらか。照準はオレの頭部と見た。さあ、受けてみろ。対手刀戦用・絶対防御護身術・奥義――――!
――――真剣白刃取り(肉弾防御バージョン)!!
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