ⅩⅣ - 人皆旅人

◇ Ⅳ - ⅳ ◇ Ⅹ ◇

 ――――何気に牛は早かった。


 ガチンコレースを開始して、もう間もなくゴールである沢田家へ着こうかという所。今だ子牛はオレの前を走って、トップをキープしている。普通に走ればオレの足の方が五歳児よりかは長いのだから、確実に追い抜けるはずなのだが。

 相手が悪かった。

 奴は住宅地特有の地形を見事に利用して、壁やら屋根やらを飛び越えてショートカットをしていやがる。こんなんじゃ、いくらリーチに差があろうとも関係ない。むしろ、猿の様な動きのあれに勝てる訳がない。


 ――――って貴様は牛だろっ!

「ずるいぞランボ!! フェアじゃない!! 訴えてやる!!」

 フェアプレーも何もあったもんじゃない遊びなのだけど。

「なあに? まけいぬのとおぼえがきこえる気がするかもしれないよ〜」

 テラムカ。殺意だ。これは明確な殺意だ。
 おのれ、牛風情が! 家に着いたら必ず吠え面欠かせてやるぞよ!

 売られた喧嘩を買い、ラストスパートをかけて全力疾走。真っ直ぐと伸びた道の先にあるT字路。あそこを左に曲がれば沢田家だ。んがしかし、普通に走ったんではあの牛には勝てない。

 ので。

「くぴゃ!?」
「正気は我にあり!!」

 ふははははは(お腹の底から)! 抜かったな! 塀の上を走れるのは何も貴様だけではないのだ! だってオレは日本人! 忍者の血が微量なりとも混じってたって可笑しくないと言い切ってみせる!

「ぐぴゃーーーーっ! トキじゃまーっ!」
「ふ、まだまだだね」

 移動場所をランボが走っている塀の上へ移行して、ランボの進路を塞ぐように登り上がれば、僅かだけれども形勢が逆転。走っていたランボはと言えば、オレの足にぶつかり体制を崩して、オレに文句を飛ばしていた。ふふ、牛め。

 子牛がやいやい騒いでいる隙に進むのは、決して卑怯なのではない。
“戦法”と言うのだ。ふはははは(お腹の底から)。

 さあ、ゴールは直前である!


 だがしかし!

 オレの足は曲がり角に近づくにつれ、失速した。何も子牛に勝ちを譲ろうなどという、お優しい考えでではない。眼下に見える、黒い群衆に気圧されているのが理由だ。

 塀の下。オレの足元は、一面、黒。

 黒いスーツに身を包んだ、怖いおじさん達が、わんさかいて、塀の上にいるオレは、その人達を、どうしても偉そうに見下ろす形になり。おじさん達はそんなオレを『なんだこの偉そうなガキは。魂取ったろか』と言う形で見上げてきて……。


 一方的な冷戦体制。
 勿論その一方は、オレじゃなくおじ様方。


 しまったな。どうしようか。ニューラライザー使用されるんのだろうかな。ニューラライザー取り出されて、記憶飛ばさなくちゃならんのかな。参ったな。超怖いな。ああ、そうだ、確か彼らは缶コーヒーが好きだった気がするな……あ、違、間違えた。あれは、日本の捏造だ。

 どうしよう。
 都市伝説の対応なんて、オレ知らない。

「ランボさんの勝ちだもんねー! やーいトキののろまー! カメー!」
「なぬ」

 左――沢田家玄関の塀の上。
 その場で跳ねながら、オレに向かって舌を出しているランボを発見。

 しまった! ぬかった! 忘れてた! 黒い人達に気を取られてすっかり頭から飛んでいた! オレの目的は、ガチンコレースに勝ってあの子牛にぎゃふんと言わせてやる事だった! 畜生、都市伝説!

「ちょっとたんま! 今のなし! もう一回やろ!」
「だめー、なんですか〜? まけおしみですか〜?」
「ずあ! む・か・つ・く! こんの牛、焼肉にして食ってやろうか!」
「ランボさん乳牛だもんね〜」

 そこ!? そこなのか!?
 て言うか、人間全否定か!?

「でもね〜、トキも頑張ってたからね〜、やさしいランボさんは、ごほうびをあげちゃうよ〜……はい、これ、ごしんよう。すごく、ぶっとぶ」

 そう言ってオレに投げられたのは、ランボがよく持ってる手榴弾。頭から取り出してそのまま投げられたので、危ない、とは思いつつも、爆発はしまい、と安心して受け取りに掛かる。


 そこで二度目の、だがしかし。


 ランボの頭に煌めいている、ミリタリーアニメとかで見たあのピンは何だろうか。もしかして、もしかしなくても、頭から取り出す時、髪の毛に引っかかって、みたいな感じでよろしいのだろうか。

 ランボに向けていた視線を、頭上高くにある手榴弾へと向ける。
 ピン外れてる。しかもオレに向かって綺麗に落ちて来てる。


 ちょ(小文字のダブリュー群生)おま(小文字のダブリュー群生)。


 まずい、と思って逃げようとしたけれど、如何せん足場が悪かった。右足を狭い塀の上から踏み外したオレは、そのまま道路側へと倒れ込み、落ちてきた手榴弾はオレの足元で爆発。足にとてつもなく痛い衝撃を感じた後は、耳鳴りが襲ってきて、体はそのまま地面に落ちた。


 ……かと思ったら、何かがオレの体を支えてくれている。
 地面に落ちたと思ったのに痛みもない。
 ……て、言うか、なんだこの体制は。

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