ⅩⅥ - 人皆旅人

◇ Ⅵ - ⅱ ◇ Ⅹ ◇

 足を怪我した次の日の朝。


 目を覚ました時には、ディーノさん達キャバッローネの皆さんはもう沢田家を出た後だった。昨日の晩、ディーノさんから、頑張れとか気を付けろとか、奇妙な事を言われたので、それについて聞きたかったのだけど、いないんじゃどうしようもない。ので、さっさとその事は諦めて、ツナ達と一緒に、さっさか朝食を食べる。

 今日はツナが少し眠そうだった。
 遅刻するから叩き起こしたわけだけど。


 通学路ではごっ君と合流して、他愛の無い話に花を咲かせた。


 今日ランボがおねしょしたとか。
 昨日の深夜に面白いアニメ見つけたとか。
 この間他校生に絡まれたからふっ飛ばしてやったとか。

 見事にバラバラの内容だったけどなんだかんだ噛み合って楽しかった。

 昨日の放課後に色々あった訳だが、昨日今日と、結構普通に話せているオレ達がいる。オレが『強姦未遂の犯人だ』なんて言われた時は、焦ったけど、うんまあ、結構どうと言う事はない。日が経った今でも、思いの他オレは冷静で、ケセラセラ、なるようになるさ、と言う自分がいる。流石に閣下(雲雀恭弥閣下)から、『君、最有力犯人』だなんて言われた時は心臓が停止するかと思ったけど。


 やってないんだから、どうしようもない。
 焦った所で、仕方がないんだから待つしかない。


 ただ、この事でツナ達が少し不安になっている様なので、笑顔が時々曇るのが時さんは心配だ。でも今は自然と笑っているので、深くは突っ込まないでおこうと思う。


 通学路を歩いて並中へ向かえば、見知った顔ぶれが増えていく。


 笑顔がいつも爽やかな山さんに。
 これまた笑顔が眩しい笹川兄妹。
 そして何故か、学校が違う筈のハルちゃん。

 ハルちゃんとは途中で別れてしまったが、さり気にみんな第一声がオレを心配してくれる言葉だった。左足を怪我した、と、何処からか聞いたらしい。

『おい時、無理すんなよ? 痛くなったらすぐに言えよな? なんなら負ぶってやるからさ!』『時君、痛くない? 痛んだら言ってね。すぐ包帯取替えに行こ』『白井! 我慢出来なくなったらオレが負ぶってやるからな! 遠慮するな! 極限な大船に乗ったつもりでドンと来い!』『はひい! リボーンちゃんから聞きましたよ! 時さん足をテロリストに爆撃されたって! 大丈夫ですか!? コレお見舞いの飴です! 良かったら食べて下さいね!』

 最終的にハルちゃんから情報源も聞けて、時さんはちょっと……いや、かなり恥ずかしかったよ。顔から火が出るとはこの事か。若さって怖い。

 でも……なんというか、幸せだったと思う。

 誰かから、こうまで心配されるなんて随分と久しぶりで。
 この歳になると、それも中々気恥ずかしい訳なのだけれど。
 誰かに心配されるという事は、こう言うものなんだ、って思い出して。


 うん……嬉しかったな。


 それからの道のりは、中々の青春だった。
 他愛の無い話に花が咲くというのは、若さだと思う。
 オレもまだそんな事言う歳じゃないけど、十代って凄いんだよなあ。

『時に怪我させるなんて何してたんだよ獄寺』『うるっせぇな野球馬鹿! そもそも跳ね馬が馬鹿してっから……ああ、いや、そもそもとっ……白井が馬鹿してっから悪ぃんだろうが!』『いいや、オレは悪くない』『アホ牛と競争……つって、馬鹿以外の何だってんだ!』『ぷふ、それはオレも思った……っ』『あ! 畜生! ツナまで笑った! 同じヘタレ仲間にまでけなされた! ただ単に競争をしていただけなのに、どうしてここまで馬鹿にされなければいけないのか! 論理的に語れこの野郎!』『い、いや、悪くはないけど……ぷぷ』『そうだぞ沢田! 勝負の何がいけないと言うのだ! 世の中いつも真剣勝負! 男ならば勝負に生きてこその人生だろう! 故に、極限ボクシング! よし! 沢田、白井、ボクシング部に入れ!』

『『ぎゃっ!!』』

『時君は陸上部の方がいいと思うよ、お兄ちゃん』『……え』『な、何故だ京子!』『ええっと……ほら。学校に編入してくる前に雲雀さんと追いかけっこしてたでしょう? 凄く速かったから、どうかなあ、って思ったんだけどね』『嫌だ! ボクシング部だ!』『い、いや、オタクのオレ的には帰宅部でもって、さっさと家帰ってアニメ見たいっていうか』『なあ時。お前雲雀と、かけっこするほど仲良かったっけか?』『ははは、やだなあ山さん、『かけっこ』なんて可愛らしいものじゃないよ。あれだよ。デスレースだよ』『……ああ!』『まあ、逃げ足“だけは”大したもんだよな』

『うがあ! もうこの際何でもいい! おい白井! お前のその俊足とやら実力をこのオレに見せてくれ! 行くぞ! 並盛町一周のガチンコ極限レースだ!』

『うわ、びっくりした! 待ってくれ兄貴! 学校は!?』『そんなもの知るものかあっ!』『す、すげえ! 教育機関を一蹴した!』『お! なんか楽しそうだな! 先輩! オレも参加すますよ! ドベは一位取った奴の言う事をなんでも聞くっていう事で――――スタート!』『うおお! 燃えてきたあっ!』『京子ちゃんの猫耳はオレが頂く!』『ちょ! 待て時! 何考えてんだ――――って、待って置いてかないで! っていうか京子ちゃんどうすんだよ!』『レディーは特別待遇に決まっているじゃまいか、綱吉君』『十代目に向かって偉そうにするんじゃねぇよ! このヘタレ野郎っ!』『ははは、貴様の“十代目の右腕”願望は必ず阻止してみせるぜ!』『ほざけよオタクが!』『ほざいてやったわ、オタク様がなあ!』『ま……待ってっ』

『ツナ君がんばって!』
『は、ははは……(学校はどうするんだ)』

 ちょっと暴走してしまったけれど、ちゃんと学校にも行ったので問題はないだろう。かなり有意義な時間で、楽しかったし。学校でもあんまり低レベルな中傷も飛んで来なかったし。みんな笑って、みんな隣にいて、ゆる〜く過ごせて、紙面の上の憧れでしかなかった世界が目の前にあって。

 うん、幸せだった――――





 ――――だから油断していたんだろうと思う。

 自分の置かれている状況を軽く見ていた、自分のミスだ。
 並盛最強の彼の言葉を突き放した事への罰かもしれない。
 だけど、後悔してももう遅い。

 今日の終わり。今日の帰りに。
 この世界でのオレの居場所が、まずは一欠けら。
 崩れて来た――――

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