ⅩⅥ - 人皆旅人

◇ Ⅵ - ⅶ ◇ Ⅹ ◇

「あからさま!!」
「早くしないと置いて行くよ」

 それは困る。

 仕事を終えた閣下に引っ付いて応接室を出たオレは『見張りつきで連行されるとは、一体どんな感じで行くのだろうか』と、不安半分、期待半分で、そわっそわしていた。何故期待しているのかといえば、連行となるとやっぱ、護送車が思い浮かぶ。しかも、閣下の事だからきっと無駄に格好良いやつに決まっているだろう。

 連行は嫌だけど、それは是非に見てみたい。
 不謹慎なのではない。ポジティブなのである。

 けど、閣下がオレに言い渡したのは、以外というか、なんというか、いや、そらあ流石に閣下も護送車なんて無理か、という、申し出だった。

『バイクで送って行くから待ってて。逃げたら咬み殺す』

 核が振ってくると思った。
 だから正直、半信半疑で校門で待っていたんだけれども。

 ふはは、来たし。

 バイクに跨っている閣下が不覚にも格好良いけど、爆発し「何?」それにしても、マイバイクやっべーすな。かっけーよ。オレバイク好きなんだよ。いや、詳しくはないのだけど、やっばいよこれ。なんだっけな、このバイク。スズキの……なんだったっけかな。

「うん、ヒバイクでいいよな」
「何言ってるの、早く乗って」

 そう言って投げられたヘルメットをわたわたと取り、促されるまま頭に装着。君はつけないんだね、と閣下に視線を向けるが、視線ガン無視。もう少しだけバイクを眺めていたかったけど、これ以上待たせたら命がやばい気がするので、閣下の言葉に従う。

 そいで閣下の後ろに跨れば、だ。

 ははは、見ろ! 閣下が御者の様だ!!

「咬み殺すよ」
「え゛? こ、心読んだっ?」
「感」
「あ……ああ、うん、シックスセンスっていうやつですね。ありそうで無さそうだけど、ありそうだよね。何せ閣下だもんね。幽霊? 何それ美味しいの? っていう感じと言うか」
「莫迦言ってないで、ちゃんとしがみ付いてなよ、落とすよ」
「その言葉に悪意が感じられる」

 オレの方なんて見ずに、前方を見つめて淡々と喋る閣下。

 そもそも、群れるのが嫌いな彼にとっての、この行為は嫌な事この上ないんではないだろうか。自分のバイクに他人を乗せる事さえしなさそうなんだから、これは一種の縄張り荒らし……みたいな?

 ……んまあ、とにかく、自分の領域に他人を踏み込ませるのが嫌いな彼には実に迷惑な状況だろう。それもこれも、オレが強姦未遂の容疑者だったりするからで。

 ……ちょっと。
 ちょっとだけ悪い気がする。

「……なんか申し訳ないっす」

 少しだけ。少しだけ(ここ大事)閣下に罪悪感を覚えたオレは、バイクを走らせる閣下の背中に言葉を投げ掛けた。小さい声だったので聞こえたのかどうか分からないが、何も反応を見せないので、聞こえなかったのかもしれない。

 自分の物よりも幾分か高い位置にある閣下の肩につかまり、少し冷たい風を感じながら、彼の後頭部を見る。それで彼が何を考えているか分かる訳でもないが、何となく見つめ続けた。

 暫く見つめた後に空を見上げれば、空はもう夜色の濃い紺色を帯びて綺麗な星を煌めかせていた。そんな夜空を見上げて、そう言えば、と、思い至った所で――――

「…………ん?」

 閣下が声を上げた。
 そして止まるバイク。

 彼の視線を追えば、前方ではなく左の――街頭の無い狭い路地に注がれていた。閣下を見て不思議に思ったオレも、自然とそちらに目を向け、暗くて良く見えない路地に目を凝らす。しかし幾等凝らしても、人間の目は猫の様に万能ではないので、暗がりに慣れてきた目でも、先の方は暗闇のそれで、何が在るのかさっぱり分からない。

 何故彼がここで止まったのか、その意図が全く掴めないオレは痺れを切らして、オレの前にいる彼に声をかけようとした。すると、目を向けた矢先に閣下が反応を見せて。

「何かいるね」

 何か、と言った彼の目は猫の目の様に光り暗がりを絶えず捉えている。

「何かって……」

 んまっ、まさか……幽霊っ?

「違うよ。人……だね。声がする。女と……分からないけどもう一人」

 女。
 そう言われてオレが思った事は、今、オレが置かれている状況。

“強姦未遂の犯人”。

 故に『もしかしたら、この先で、誰かが真犯人に襲われているんではないか?』……とオレの頭はそんなありきたりな答えにしか行き着けなかった。

 けど、その考えはあながち間違ってはいなかったらしく、オレと同じ考えに行き着いたのであろう彼が行動を開始。跨っていたバイクから素早く降りると、付いて来い、と言わんばかりにオレに目を向ける。

「君の容疑が晴れるいい機会だ。無論来るだろう?」

 挑戦的に向けられる目だ。
 でも何処か楽しそうな、良く分からない目。

 けど。

「勿論!」

 実に頼もしい、と、思いながら笑顔で返す。
 こう思ってしまうのは、オレが彼を認めている所為。
“苦手”と“嫌い”は、全くの別種であると、オレは思う。


 バイクから降りた先にあるのは、天国か地獄か。分からないけどとりあえず、この先にある何かが、オレが今欲しい真実であって欲しい――――

08/??/??Re:10/08/17 ************** Next Story.

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