ⅩⅥ - 人皆旅人

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◇ Ⅵ - ⅳ ◇ Ⅹ ◇

 今のオレは、さながら、もの凄く不安定なジェンガの棒を見事引き抜いて、なおかつ、上に積み上げちゃったヒーローな感じではないだろうか。て言うか起きない、この人。怖い。天変地異の前触れかなんかじゃないのか。並盛の平和が崩れ落ちる前兆ではないのか。


 でこ小突付いても起きない閣下に驚愕して、恐怖して、少々変な不安が募ったので、その後もニ・三度小突いて、でも起きないので、なんだか面白くなってきてしまったオレは、目的をすり替えて小突き続けた。

 リアルジェンガ。
 今なら、おでこに“肉”もいけそうだ。

「……何を、しているんだ?」
「えっ!?」

 閣下のでこを小突く事に妙な楽しさを覚えたオレは、背後に人が立つのに気付かなかったらしい。振り返ればオレを見下ろす様に立つ閣下の補佐たる、草壁哲矢さんがそこにいた。

「いいいい、いるなら、いるって言って下さいよっ! どこの戦艦かと思っちゃったじゃないですかっ! ああああ……びっくりしたっ」
「は……あ……戦艦? ……は、良く分からんが。いや、なんだ、あまりにも危険な事をしていたんでな、どう声を掛けようかと……」

 うはは! ごめんね! やっぱこれデンジャーなのね!

「いやすみません。あまりにも起きないのでつい」
「何が?」
「ん? いやあ、だってほら、いっくら小突いても起きないんですもん、なんか楽しくなってきちゃって、怖いもの見たさと言うか、いや別にマゾヒスティックな、そういう事ではないんですけど」
「ふーん」
「いやほら、人間ってなんだかんだ危ない方向に進みたい生き物な所があるでしょう? 実はオレ、そういう欲求を押さえるのが凄く苦手でして」
「例えば?」
「例えばそうだな~、『押すな』って書かれた明らかに良くない事が起こるボタンを押しちゃうとか。絶対良くない事起きるっていうのに、いかんすなあっ」
「莫迦だね」
「ぎゃ! 草壁さんにけなされた! 性なんですってこれ! 人間の悲しい性! 怖いって言うのに、心霊番組見ちゃうとかあるでしょうっ?」
「……怖いの?」
「怖いってあれ! 人類の恐怖だね! ありえないっすわ! 尋常じゃない! オレあの手の番組見た日はもう駄目で必ずでっかいボン太くんを」
「……何それ」
「あれ知らないですか? フルメ……ってあ、そっか、こっちには無いのか。あ、そもそも、そんな一般層狙ってるようなアニメでもないや。所で草壁さん、急にお声が高くなっていらっしゃりますが、風邪でも引かれたのですか?」
「お、俺ではない」
「ん?」
「僕だよ部外者。何? 僕の声も分からない程にその脳は劣化した?」

 ……わーい。

 オレが会話していたのは、何時の間にか見事に目を覚ました、閣下本人でござったようです。背中から……背中からなんか突き刺さりそうな、この眼光の鋭さが、あんまりにも、あんまりだったので、目の前にそびえ立つ防波堤の足にしがみ付いてみる。

「草壁さんオレを助けると思って奴を滅殺して下さい」
「は!!??」
「きっと貴方ならやれる、オレは信じてる、ビリーブ」
「莫迦やってないで、さっさと仕事出して」

 そう言われちゃオレの行動は早いもので。

 そそくさと足元に置いてた鞄を開けて、大きな茶封筒を取り出して、提出して、そしてその場をさっさと後にしたくて、素早く立ち上がり草壁さんの後ろにある出口へと向かった……が、忘れちゃいけない、オレがここに来たもう一つの理由。

「今日の仕事、忘れてるよ」
「あい、すみませんでした、さようなら」

 呼び止められて、心臓跳ね上がって、振り向いて、受け取って、再度脱出口。でも、逃げられなかった、タイミングを失した、運が無かった。

「待ちなよ、今日は雑用をやって貰うよ、だから、お茶」

 ちくしょーーーーーーーーーーーーー!!

 呼び止められて、振り向いて、命令されての、嘆きだ。

 しかし、援助と言う名の脅しを掛けられてるオレが、逆らうなんて選択肢を選ぶわけもなく、嫌々ではあるが、隣にあるらしい簡易キッチンへと大人しく移動した。せめてもの意思表示に、鞄をソファの上に叩き付けるのを忘れちゃいない。

 でも、その時少し睨まれて怖かった。
 ああ、そうさ、チキンさ。

(雑巾汁でお茶入れてやろうかな)

 応接室の隣に元々造られていたのであろう、小奇麗で小さい、けれども確実に利用性のあるキッチンにて、昼ドラ顔負けの策略を練ってみる。何も、台所付きの応接室独占しやがって、とかの恨みではない。ましてや、逆恨みなんて図々しいものではない。もっと、はっきりした憎しみだ。

 そう、これは単なる、八つ当たりだ。

 ちょっとぐらい、ぐちぐち言ったっていいと思うんだ。少しくらい、ぐだぐだ言ったっていいと思うんだ。お茶さえ入れられれば、あの畜生も文句はないはずなんだ。

 なのに、だ。

 なのに、あの畜生ときたら、チキンハートなオレの事を、あの鷹みたいな眼で睨みくさりやがったんだ。お茶を雑巾汁で入れた訳でもないのに、ティーバックじゃなくて、ちゃんとしたお茶っ葉で入れたのに、特に何も怒られる様な事をオレはしてないのに。

 そんなにオレが嫌いかあ!

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