ⅩⅥ - 人皆旅人

◇ Ⅵ - ⅴ ◇ Ⅹ ◇

「何草壁から先に渡してるの。この場合僕の方が先でしょ」
「……近かったからですが何か?」
「僕がルールだけど文句ある?」
「ありませんよ畜生! もう遅いじゃん! 草壁さんに渡す時に言えよ! て言うか作る前に言えよ! なんだそれ! 順番ってなんだそれ!」
「次は会計。詳しくは草壁に聞いて」
「はいはいはい……」
「YESは?」
「………………一回……イエスサー」

 どうやら、お茶を草壁さんより先に渡された事が癪だったらしい。

 ふん、オレの中の貴様と草壁さんの間には、越えられない壁が存在するのだよ。越えられると思うな、ふん。突破不可能だ、ふん。貴様如きがこのオレの中で君臨しようなど、夢のまた夢だという事を忘れる――――

「何か良からぬ事を考えてるね。咬み殺そうか」
「うわあああん! ごめんなさい! ごめんなさい! もうしません!」

 信長様に、足軽が謀反とか、無謀すぎて笑える。

「無駄な抵抗をするのは止めとけ白井」
「……魂が、逆らおうとするんだ。オレの魂が、縛られる事を嫌うんだ」
「……そうか……まあ、なんだ、計算でもして気を紛らわせ」

 くたびれた雑巾の様な状態で、草壁さんの座るソファまで歩いて『慰めの言葉をくれる草壁さん優しいな』とか油断してたら、計算して気を紛らわせとかいう、悪魔のお言葉と共に、結構な量のお仕事を渡されてしまえば、草壁さんのリーゼントをちょん切りたい、と思うのは仕方がないと思う。

 嫌な数字が立ち並ぶこの紙を、盛大に燃やしたい。
 でも、んな事したらオレが灰になるから大人しく仕事する。

 もう嫌だ。鬱だ。
 それでも、仕事してるオレの事誰か褒めて。

「………………あ」
「ん? どうした?」
「あ、いや、六時のアニメが、と思ったのですが、こっちのはまだ把握してませんでした。気にせんで下さい。帰ったら新聞チェックしますし」
「は……あ……所で、白井はアニメが好きなのか?」
「勿論だとも! アニメと言わず、漫画にラノベにゲームにエロゲに」

 笑顔でそこまで言って、マイガオレ、大暴露。

「……え、えろ……げ?」
「うん、正しくは、エロゲーなんだけどさ。青少年は気にしちゃいけないかな。深く聞くと帰ってこられなくなるかな。うん、聞いちゃいけない。聞いたら穢れる。それにオレ、別にそれで、うはうは、してる訳じゃないんだよ。そりゃ友達にはそういう奴もいるけど、オレは違うよ。断じて違うよ。お話がね。ストーリーがね。それにオレ」
「言い訳がましいね」
「うっさいな! ほっといてくれ!!」

 事実を否定できなかったんだから、仕方ないじゃないか!

「で? えろげ? 何?」

 知らないんだ。
 ……いや知らないんだろうけどさ。
 知ってたら困るって言うかさ。

「……十八禁」
「………………AV?」

 ああ、くそう。
 オタクを蔑む顔、ぱねえ。

「違うよ、それアダルトビデオの略じゃん、オレが言ってんのはエロゲームでして、だから……アダルトゲームと、あいなりまして……ええっと」
「……つまりR十八の卑猥なゲーム……」
「うんまあ、そうなんだけど、いい話もあるからさ、泣けるんだよ? だからオレはそれ目当てでやってる訳で……それにね、にゃんにゃんしてるシーンでも愛はあるんだよ? ……そりゃあ、ジャンルも色々だけど」
「………………」
「………………いいよもう、どうせヲタクですよ、気持ち悪いんだろうがよ。エロゲーの話したら皆それだけで引くんだもんな、気持ちは分かるけどさ……本当いい話だってあるのにさ」

 閣下の視線に耐え切れず、自暴自棄。

 大体分かっちゃいたんだよ。オレがついつい口を滑らせてエロゲやってる事をばらしたら、殆どの人間が引いていくんだもの。中には引こうとも『それがお前だ』とか言ってくれる一般ピーポーな友達もいたけどさ、そんなの稀だよ稀。だから閣下も、オレの事そんな風に言うんだろうな、と思ったんだよ。

 でも、うん、この人ってそういう人だよね。

「別に君が、AV見ようが、えろげ? しようがどうでもいいよ、学校の風紀さえ乱さないんであれば…………ああ、もう乱してるか」

 強姦。

「ああ、ああ、そうですね! オレはもうそうでしたね! ごめんなさいね! エロゲとか、凄くしょうもない事でいじけてごめんなさいね!」

 強姦未遂事件の容疑者にされている時点で、もうなんでもござれである自分の状況を、とんと忘れていた。かつ、思い出した。嫌な事思い出してしまったので、気を紛らわすように、電卓に黙々と数字を打ち込む。しかし、あの閣下がオレのそんな考えを察してくれる筈もなく、会話は延長戦に突入しやがった。

「で、君“十八禁”って、言っていたけど、未成年なのに買っているのかい? 闇ルートか何か? 場合によっては、強姦未遂に上乗せだけど」
「中学生なのにバイク乗っていいんですかーーーー!?」
「僕を誰だと思ってるの」
「やーーーーーーーー! もうや! 草壁さんオレこの人嫌いだ!」
「ま、まあ、落ち着けっ」
「で? どうなの、変態」
「だーーーー! 変態言うな! オレ買える歳だもの! オレもう二十歳だし、普通に買えるもの! 買っていいんだもの! 怒られないもの!」
「……何処が二十歳(はたち)」
「それは!!」

 ……それは。

「心が!!」
「上乗せ」
「もう嫌……」

 思わず言葉を詰まらせて、思わず突拍子もない事言って、思わず真っ白に燃え尽きて、もう駄目だ。中坊すらも対処できない全く駄目な大人、略してまだおとは、このオレの事だ。

 閣下には力でも言葉でも、何に関しても勝てない事が分かった。うっかりどっかの世界に飛んじゃった際は、変な人に喧嘩売らない様に注意しようと思う。

 もう遅いっつーの。

 ソファの背もたれに、ぐったりと体を預けて、数秒。もうオレを追及する事に満足した閣下からは、何も言い放たれる事は無くなったので、とりあえず、オレは目の前にある作業を再開する事にした。何もだべらず黙々と続ければ、例えこの量でも早めに終わる筈だ。

 余計な事(えろげ)はもう言わない――――

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