◇ Ⅵ - ⅵ ◇ Ⅹ ◇
ふ、ふふ、勝った。
人生の宿敵たる数字に打ち勝ってやった!
腕時計を見やれば、時刻は午後六時四十五分。
窓の外に目をやれば、冬らしく大分暗くなっている。
外から聞こえていた生徒達の賑わいも、随分薄れていた。
仕事が終わった事に、少しだけの優越感に浸りながらに書類をまとめて草壁さんへと、仕事終了の報告と、これをどうすればいいのかと、声をかける。
んが。
オレの隣で仕事していた筈の草壁さんがいないでやんの。
「神隠し」
「帰ったんだよ」
オレの声に答えたのは目当ての草壁さんではなく、仕事開始時の状態から全く動いていない雲雀恭弥閣下だった。変わっていると言えば、閣下の机の上にある書類の山の量だけ。
同じ時間であんなに仕事しているとは。
べ、別に凄いだなんて思ってねーんだからね!
「ええと……か、帰ったって何時ですか?」
「十五分くらい前にね。 君、思いの他集中していた様だったから、声が掛けづらかったんじゃない? 草壁は君と違って気が利く男だからね」
流石草壁さん! いい人だ!
この畜生に、爪の垢を煎じてがぶ飲みさせたい!
「……何?」
でもオレ、そんなに集中してたんだな(スルースキル発動)。
意外だな、デスクワークいけたのか自分。
自分の意外さに、ちょっと嬉しさを覚えつつ席を立って、ばっくれる準備、げふん、げふん、帰宅する準備を開始する。とりあえず、終わった仕事を……草壁さんがいないなら仕事を渡すのは、やはり閣下になるのであろうから、書類持って身構える。
後は流れ作業で、移動、机に置く、出来てますよの指差し報告、ソファの鞄持つ、何事もないように出口に向かう、グッバイコマンダー! したら、閣下のダイヤモンドダストな視線と殺気が帰って来たのは、スルー出来なかった!
「何帰ろうとしてるの」
「だ、だって仕事終わったしっ」
「何時帰っていいって言った?」
「だ、だって……し、仕事終わったしっ」
「何時帰っていいって言った?」
オレの行動逆再生。
に、ちょっと変換加えて、応接室扉からさっき座ってたソファに飛び込み。その間一秒と掛かっちゃいないんだぜ。悲しいぜ。死地に立つと素早くなるオレ悲しいぜ。
ソファに顔埋めて、涙涙に、苦笑苦笑。
何が悲しくて中坊に怯えてるんだろオレ。何が悲しくてこの人こんなに怖いんだろう。何が悲しくてオレ、この人に逆らえないんだろう。
「……閣下オレの頭にマイクロチップか何か埋め込みましたか?」
「莫迦言ってないで……お茶」
「……さー……いえすさー」
仕事ってそれかよ、とか思いながらも体は動く。またもぐちぐち言いながら、隣のキッチンまで移動して、今度は日本茶。やっぱ冬のこの時間は寒いから、紅茶より日本茶の方が体は暖まる。オレの母さんも、冬の寒い日にはちょっといいお茶っ葉出して、淹れてくれたりしてた。
ん〜、煎餅欲しい〜♪
「はい、どうぞ」
恐らく、閣下のマイ湯飲みであろう湯飲みに茶を淹れ卓上に置く。オレはオレでソファへとUターンして、適当に見つけた湯飲みに茶を注いで、ソファに腰を沈めながら、やっぱ煎餅欲しい、なんて暖かいお茶を体へと染み込ませた。
「……日本茶だなんて気が利くね……君、本当に部外者?」
お茶出した程度で驚かれるって、どんだけ馬鹿にされているのだ。
「ははは! 気付いたか! そう! 実は先程キッチンに行った時、私は白井時と入れ替わっていたのだよ! 私の名前は正義のヒーローギャ」
「そう、そんなに脳が劣化したの。そのまま続けたら咬み殺すよ」
「OK……! OK分かった! オレ黙って茶あすすってるから、だからその物騒な鉄の棒仕舞って頂けないでございませうかっ!」
机に向かって書類片付けてるってのに、何時だってその相棒……まさに相棒は、閣下の何処かしらに装備されているらしく、今オレに向けられてるそれは、どこぞの誰かの生き血を欲して、ぎんらんぎんらんに輝いておられる。その血は勿論、イッツミーであろうよ。
話を逸らせ!
それが脱出路だ!!
「そそそそ、そう言えばオレの仕事はこれで終わりですかな閣下様っ?」
「……うん? ああ、そうだね。会計で終わりだよ。後は雑用」
「さ……さいですか」
「……でも……そうだね。そろそろ帰ろうかな」
「まじっすか!?」
「勿論君も一緒にね」
「なんでっすか!?」
「見張り」
「……そ……すかっ」
ああ、ああ、どうせオレは容疑者Aだよ! このくそ暗い夜道でオレがか弱い乙女を襲わない様に見張るってのは、分からんでもないがね!!
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