ⅩⅩⅡ - 人皆旅人

◇ Ⅱ - ⅲ ◇ ⅩⅩ ◇

『いってきます』

 今日もオレ一人分の声だけが響く。


 ここ数日は、時が先に起きて、オレが後から家を出る……そんな感じになってる。『気を使われてるなら嫌だな』なんてオレのいくじのないの良心が訴えてくるけど、それを取っ払う様に毎朝頭を振っていた。

 そう言えば近頃は、リボーンの姿をあんまり見ない。朝も爆撃で起こしたりしないし、それ所か姿さえ見えない。ちょっと不気味に思いながらもオレ的には嬉しいので深くは考えない。

 通学路を進めば、何時もの友達と合流する。
 獄寺君に山本、家が同じ方向らしいから大概二人セットの事が多い。

「おはよう二人共!」

 オレが挨拶すれば、それぞれの個性が出た挨拶を返される。

「おはようございます! 十代目!! 今日も良い天気っスね!!」

 獄寺君はとりあえずやっぱ怖いので、未だに満面の笑みに馴れない。
 一方山本は、根が良い奴だから、普通に話せる良い友達だ。

「おっす! 今日は三人いっぺんに合流だな!」

 二人共いつもの笑顔で挨拶してくれて、オレとしては結構嬉しい。
 だけどやっぱ、最近は何かが違う。

 オレもそうだけど、未だにみんな――時を信じてた人達は、それを引きずってるんじゃないかな、と思う。

 獄寺君はタバコの数が増えてる気がするし。山本は野球でエラーが増えたって聞く。お兄さんもお兄さんで、なんか理由も無く空を眺めてる事があるって、京子ちゃんに聞いた。

 なんか……なんか変なんだ、あの日から。
 忘れればいいのに、忘れられなくて。
 気にしなければいいのに、気になって。
 気になったら、目で追ってしまって……


 校門の前。
 黒髪の中学生。
 その姿に足が止まる。


 今の今まで笑って話してたオレ達の空気が変わった。なんて言ったらいいのか……ピリピリしたような……静電気が始終バチバチしてる感じ。

 最近は時が視界に入ると必ずこうなる。特にここ、ニ・三日の朝は必ずと言っていいほどこの空気を味わうはめになる。何故だか最近の時は校門で風紀委員の人と話している事が多くて、しかも相手は、あの風紀副委員長の草壁哲矢さん。

 今も、草壁さんともの凄く楽しそうに話してるんだけど……そんな時の姿が――いやきっと“時の存在が”だ――気に入らないのだろう隣の二人が、聞くだけで分かるほど機嫌が悪そうな声で会話を始めた。

「ちっ……風紀まで手懐けやがって、最低野郎が」
「“ヒバリまで”……だろ? なんかオレ達とんでもねー奴と“オトモダチ”やってたみたいだな……」

 二人の声がいつもより低く唸る。
 でもいまだにオレは、それへと賛同出来ないでいる。

 ダメツナだからとか、根性なしだとか、チキンだとか、言われそうだけど……なんか……なんか違うんだよな。そもそも『雲雀さんを手懐ける』なんて、オレに近い感じの時に出来るだなんて思えない。

 それに何と言うか……やっぱり上手く言えないけど、雲雀さんは何かを知ってる気がする。いや、何をなんて聞かれたらオレも困るんだけど、なんか……なんか知ってそうな“雰囲気”なんだよな。

(……雰囲気ってなんだよオレ)

 一つ、大きな溜め息を吐く。
 ……吐こうとした。すぐやめた。

 山本と獄寺君に見られでもしたら、きっと気を使わせるし、多分、この溜め息が一体何に対しての溜め息かもすぐにばれて、微妙な顔をさせると思う。そんなのは二人にも悪いし、正直オレだって嫌だ。


 ……嫌だ。
 ……なんだそれ。

 二人に悪いとかじゃないだろ。
 オレが嫌だとかじゃないだろ。
 そんなのただの言い訳だろう。


 ――――なんで立ち向かわないんだよオレはっ。


 自分が情けなくて、情けないって分かってるのに、動かない自分がもっと格好悪くて……泣きたくなった。消えたくなった。ここからすぐに逃げ出したくなった。

 でも、それすら怖くて出来なくて――獄寺君がオレを呼ぶ。顔を上げれば時は居ない。反応の鈍いオレにまた獄寺君が声をかける。オレは笑ってそれに応えて、そちらに進む……


 情けない。


 時の方に行きたい癖に行かなくて、ここから逃げ出したい癖に結局こうしてここにいる。傍から聞こえる時の悪口は聞かない振り、いざ聞かれれば気持ちで否定して、声で肯定。中途半端にぐちぐち悩んで、悩むばっかで何もしない……


 馬鹿だオレは……本当に……

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