ⅩⅩⅡ - 人皆旅人

◇ Ⅱ - ⅴ ◇ ⅩⅩ ◇

「――――ははははははははっ! 温い! 温いぞ! その程度のファンネルがこの白い(白井)奴に当たると思うなよ!!」
「ちっくしょぉぉぉぉ! なんで当たんねぇんだよぉ!!」

 オレ達は今遊んでる。
 あ、違う。戦ってる。
 あ、いや、体育の授業中だ。

 寒い中、運動場でドッヂボール。
 クラス二チームに分かれてやってるんだけど……


 ……なんだこれ。


 オレと獄寺君が同じチーム。
 時と山本と京子ちゃんが同じチームの分かれ方。
 ちなみに獄寺君は最初から、オレは一番に当てられて外野だ。

 そして今、オレのチームの方にボールがあって、外野と内野を行ったり来たり。時のチームで内野に残ってるのは、時と山本だけで、オレのチームのボール持ってる人の狙いはずっと時なんだけど……

 見事に、それはもう見事って言うかなんて言うか、オレと時の違いは運動神経にあるんだな、って思い知らされるくらい見事な回避力。

 外野と内野で、バシバシと、ボールの受け渡し……と言う名の時への攻撃がされてるんだけど、それを次々と時がかわすもんだから、こっちの内野は軽く息切れしてる。当の時は口笛吹いたり挑発して余裕しゃくしゃくでちょっと格好いい。ちなみに山本は、何もせず陣地の隅で傍観だ。

「おい白井ー、避けてばっかじゃないでちゃんとボールに触らんかー!」

 避けてばかりの時に、審判をしていた先生も流石に呆れて声を掛ける。
 それに愚痴を言いながらも、曖昧な肯定を送る、時。

 そう言えば、先生達は時に対して特に何の反応も見せない。強姦事件の犯人だって噂は先生達の耳にも入っている筈なのに、普通に、何のお咎めも受けずにこうして授業を受けている。


 ――何か考えがあるのかな。


 先生と時のやり取りに、不思議だな、なんて思いながら、また始まった攻防戦に目を向ける。

「そういやドッヂとか何年ぶりだろ。高校くらいからもう体力死に始めたからなあ……ゲームばっかやってたなあ……スポーツゲームとかやってねえなあ……」

 ぶつぶつ、と。
 狙われてるって言うのに、余裕な時が何やらぶつくさ言っている。
 勿論、外野がその隙を見逃すわけがない……が――――

「殺気……っ!!」

『なんだそれ』――とオレが突っ込んでる間に、飛んできたボールを振り向きざま手の中へと収めた時すげえ。オレのチームの外野が『何で取るんだ』とか不条理な事を叫んでる気がするけど『それがルールじゃないか』と、今度は味方へオレの心が嘆きながらに叫ぶ。

「てらよわす! っうぇっうぇ!!」

 取ったボールを指の上で器用に回しながら、謎の言葉を発した時に、敵だからこそなんか感じ取ったんだろう、敵チームの顔が見る見る怒りに染まって……あの言葉理解できるのかよすげえっ。

「くっそお! ぜってー泣かす! ぜってー泣かす!!」
「時君がんばってー!!」
「私のボールは君の為に! オレ頑張ります京子ちゃん!」

 オレもあんな事出来たら、ちょっとはカッコ良くなるかな、なんて思ったり。そんなちょっと格好良い時の姿に、向こうチームの外野に居る京子ちゃんが、可愛い声で時に声援を送っているのが視界に入った。


 京子ちゃんは、時の事を信じている、数少ない人間の一人だ。
 そう言えば、女子勢……ハルやビアンキも全然と言う感じだった。
 勿論、理由なんて分からないけど……


 ……ああ、そう言えば。


 そう言えば、リボーンはどうなんだろう。
 あいつは時の事、信じてるのか、それとも……

「オレのこの手が光って唸るっ!!」

 ……な、なんだってっ?

「お前を倒せと、輝き叫ぶっ!!」

 光りっぱなしだっ!
 いやそうじゃない落ち着けオレ。

 なんか突然聞こえてきた叫び声に、考えていた事が一気に吹き飛ぶ。敵陣の内野に目を向ければ、変な事叫びながらボールの乗った右手を、天高く掲げた、どうかしちゃっている時。そしてそれを見て呆けている、山本と、内野一同。

「必殺……っ!!」

 時の目が煌いた気がした。

「シャァァァイニングゥゥ!! フィンガァァァァァー!!」

 振りかぶって投げられた、特に輝いていないそれは、オレのチームの内野中央に立つ、ずっと時を狙っていた人物に凄い速さで当てられた。その人のお腹に当たったボールは、くしくも地面に落ちて、時は実質華麗にアウトを取ってしまった事になる。ずっと逃げてたのに突然攻撃に入った時に、内野だけじゃなく外野も、先生までも呆然。

 そんな中でも自分のペースを崩さないのが時。
 折角アウト取ったって言うのに、またなんか愚痴を垂れてる。

「やっぱなあ、ルールがなあ、邪魔だよなあ。こう……敵を倒すなら顔面直下にビシっと決めた方がカッコイイよなあ。うーん……やっぱ、シャイニングよりゴッドだったかなあ……」

 にや、って音が付きそうなくらい幸せそうに笑う時は気持ち悪い。にやついてなけりゃ結構いい顔なんだからモテそうなのに……もったいない。

「さて先生アウト取ったよ! 文句無いでしょ! 次は滅殺だぜ! 撲滅だぜ! シェルブリットバーストだぜひゃっはああああっ!」
「……ん? んんああ、そうだな。でももうちょっと手加減してやれな。撲滅は駄目だな、中学生居なくなるだろ? それからせめて、滅殺と言わずタコ殴りな? ……おーい、誰かーそいつ外野持ってけー」

 ……うちの教師もう駄目だ。

「……で、だ。タコ殴りっうぇっうぇ!」

 ひゃはひゃは、言ってたかと思えば、うえうえ、言い出した時が、オレの方見て『タコ』がどうのこうの……オレが馬鹿にされてるのかと思ったけど、なんか隣から殺気が漂ってきているので、たぶん現役イタリアンマフィアを挑発していたんだろう。

 これはきっとただじゃすまない。

「じょ……とうじゃねぇか……強姦魔があ……っ!」

 多分きっと今の獄寺君の顔は、口角がひくひくして、目が尋常じゃないくらいギラギラしてて、タバコとか銜えて、ダイナマイトとか取り出しててて、間違いなく殺す気だっ。

「あっ! やばい! 獄寺さんマジ切れっ! 心狭いっ!」

 時と一緒に怯えながらも、耳に届いた『獄寺さん』に思考が強張る。

『馴れ馴れしくするな』

 あの日からすぐ、山本達にそう言われた時は、オレ達の事は『さん』付けの苗字で呼ぶようになった。

 別にオレは、今までどおり名前で呼んでくれて構わなかった。ただ、それが言い出せなかった。みんなが怖くて、一歩が踏み出せなくて、ダメツナなまま、時をけんえんする側に立っている。

「歯あ食いしばれや強姦魔野郎っ!!」
「かわしてみせる! 僕が一番ボールを上手く回避できるんだっ!」

 獄寺君がボールを投げる。
 時がそれを顔面で受け止める。
 山本が少しだけ呆気にとられて、京子ちゃんは吃驚顔だ。

 変わらない。
 少し前のオレ達と、何も変わっていないように見える。
 でも、明らかにオレ達の状況は、以前とは大きく違っている。

(戻れたら……いいのに)

 目の前のみんなを見ながら、切実にそう思う。
 思うだけじゃ、憧れるだけじゃ意味がないのは分かっているけど……

 オレなんかには……思うだけが、精一杯だ。

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