◇ Ⅳ - ⅱ ◇ ⅩⅩ ◇
――――授業ってモノは、無いなら無いで困る、と言う事が休日になると、ひしひしと身に染み渡ってくる。
あんな所でも行けば十代目がおられるし、何より購買の惣菜パンは、何でそんな組み合わせで美味いんだ、と言う様な神秘がひしめいていて、日本人のアレンジ精神には感服の一言に尽きると言うかナンと言うか、なんだってパンに素麺だ焼きソバだ詰め込もうだなんて思ったのかが分からないつーか。
いかん話が逸れた。
つまりは、授業が無い休日と言うのは、日がな一日暇な訳だ。
なんとか午前中は上手い事時間を潰せたが、後半日残っている。十代目の家にお邪魔する、ってのもありだったんだが、今日はあえなく留守だった。お母様に中でお待ちしていても良い、だなんて恐れ多い申し出もされたが、姉貴が居ちゃどうしようもないオレだ。
「…………暇だ」
時間はおおよそ、十四時半を回ったか否かって所か。オレ――獄寺隼人は、残りの半日をどう潰そうかと、並盛町の何処かであろう住宅地の合間を、ふらふらと歩いている。
日本特有の静けさを漂わせた空に向かって、する事が無い為に吐き出された言葉を呟けば、口に咥えていたタバコが煙を漂わせながら微かに揺れる。空に霧散するタバコの煙を歩きながらに眺めていれば、遠くの方からガキ共の騒ぐ声が耳に届いてきた。
こういう喧騒を耳にすると否が応でも、平和だ、なんて考えに至ってしまう。だが、オレの体には少しばかり平和過ぎて、正直、頭が腐る。
……なんて。
そんな事を、この国に来て何度思ったか知れないオレは、今尚、この国のこの平和な空気に、今一、馴染めないでいる。イタリアに居た頃は、もっとピリピリとした、血生臭い世界の中を、幼少の頃から歩いていた。
血の匂いを漂わせた大人達。
今にも喰らいついて来そうな荒くれ者。
硝煙の匂いに、向けられる銃口。
今この国での生活からは、かけ離れた生活。
少し物足りないと思うのは、やはりオレが闇社会の産まれだからだろう。……て言うか、既にその闇社会に染まってるしな。
そもそもこの国は、少々平和が過ぎる気がしてならない。
自販機とか無人パーキングとか、ありえない。何故誰も盗らないのかが理解出来ない。バールだなんだで、壊そうと思えばすぐに壊せる上に、小銭と言えど金ががっぽりだ。と言うか、銃を持つのが禁止、って言うのも解せない。襲われたらどうする? カタナか? カタナで切り結ぶのか? ……いやカタナも駄目なのか。じゃぁ本当に身の守りようがない。カラテか? ニンジュツか? カゲブンシンか? それとも得意の神頼みか?
……あぁ、なんか。
こんな国に住んでりゃ、そりゃウチの国でもいいカモにされるわな。
……って、いやいやいやいや、こんな事言ったら十代目に嫌われるっ。
暇すぎる所為か、余計な事を考え始めた自分の頭を横に振る。その行為の所為で乱れた髪を右手で、ざっと整えてから、またあてども無く歩き出す。
「……なんか……銃持った奴とか歩いてねぇかな」
あわよくば潰す。
……とか、言ったらまた十代目にお叱りを受けるな。只でさえダイナマイトで何度と無く、お叱りを、お叱りを、お叱りを、お叱りを……。
意気消沈してしまった自分に溜め息を吐いたのは言うまでも無い。
道に沿って出来ている塀に手を付いてうな垂れれば、自然と視界が暗くなる。足元に視線を向ければ、暖かな陽の光によって作り出された自分の影が目に入って来た。その影の中に、タバコの赤い火が浮き出て、血が一滴落ちた様な風景に変わる。
日本に来る前に良く見た、真っ赤な血。オレのモノではない、他人が流した大量の血。この国に来て十代目のお傍に居る様になってからは、とんと見ることの無くなった人間の血。
アイツの頬から流れたソレも、酷くこの色に酷似していた。
「……馬鹿が……」
暇すぎる所為で、余計な事を考え出した自分に、今度は悪態をつく。
考えない様に、考えない様にしているのに、気を抜くとすぐにこうなってしまう。
目を閉じれば、暗闇の中に浮かぶ漆黒の髪。
耳を澄ませば、オレの名前を呼ぶアイツの声。
考えたくねぇのに、考えなけりゃいいのに、一度考え出したら止まらなくなる。あだ名で呼ぶな、と言った時のアイツの悲しそうな表情が、オレの頭から消えてくれやしない。笹川に殴られた時のアイツの顔が、こびり付いてイライラする。苦しい筈だってのに、笑っていやがるアイツの笑顔から目が逸らせない。
アイツの名前を呼ばなくなって何日になるか。
アイツと飯を食わなくなって何日になったか。
……どんどん、どんどん。アイツの事を考えている内に、手だけではなく、額までもが塀に密着する形になっていて、少し擦れたのが痛かった。
でもきっと……アイツの痛みはこんなもんじゃ無い筈だ。
……そう。オレの中の誰かが呟いた言葉に頷く様にして、咥えていたタバコが揺れた。瞬間蓄えられていた灰が、足元に向かって落ちて。ソレを合図にしたかの様に、何処からとも無く声が聞こえてきた。
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