ⅩⅩⅣ - 人皆旅人

◇ Ⅳ - ⅵ ◇ ⅩⅩ ◇

 山本の腕の中に、力無く仰向けで落ちて行くソイツ。


 オレよりも小柄な人間。
 顔が白く、血の気を失っているのが見るだけで分かる。
 口からは、酸素を求める様にして白い息が十感覚で吐き出され、
 その白い吐息の大きさから、呼吸が浅いらしいのが分かった。
 そして、その格好は見覚えのある、ずぶ濡れのジャージ。
 それから、そいつを強く印象に残す。
 黒と言うより、漆黒と表現した方が良いほどに綺麗な……。



 ……黒髪。



 屍の様に、山本に担ぎ上げられたソレは。
 先程オレが、言葉を交わした筈の。
 確かに立って、か細い声ながらも喋っていた筈の。



 …………白井時だった。



 ぴくりとも動かない時に心拍数が跳ね上がる。
 その姿は日本に来る前、何度も見てきた“アレ”に酷似していた。
 イタリアや他の国で、オレがこの手で何度となく作ってきた。
 何度となく……この目に写してきた、人の肉塊――――



 ――――死体。



 もう、慣れたものだと思っていた。
 死に掛けの人間なんか見ても、十の頃には既に平気になっていた。
 だから、何かしらの“死”に対して、感慨を覚える事なんて無い。
 オレは確かに、そう、思って、今の今まで生きてきた……。

 ……なのに、今。

 オレの心は、この国に来て初めて……祖国を出て初めての。

 “死”に対する“恐怖”。

 ……と言うモノを、感じた――――

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