◇ Ⅳ - ⅲ ◇ ⅩⅩ ◇
「――――昨日今日で白井のヤツ来なかったな」
――――白井。
その言葉一つでオレの心が、静かに跳ねる。
振り返れば、オレと同世代の男が二人、塀に寄り掛かっているオレの傍を通り過ぎる所だった。どうやらオレの存在には、気付いていないらしい二人。オレの視線にも気付かず、二人で会話を続けている。
「やっとイジメが効いて来たんじゃねーの? 笑ってたけど内心スッゲー泣いてたとかさ?」
「はは! 自業自得だろ? 犯罪者は学校なんか来んなってーの」
「それよりこの時計どうするよ? なんか結構高そうだし……売るか?」
塀に背を預ける形に体制を変えて、左から右へと通り過ぎてゆく二人の会話に耳を研ぎ澄ませる。気配を消してしまえば、この程度の一般市民に存在を気取られない様にするなんて容易い。そうして聞き耳を立てた結果聞こえてきた内容は、どうやらオレの知る“白井”の事についてだったらしい事が分かった。
だがまぁ、イジメに、犯罪者。
この二つで連想出来る“白井”なんて人間、この町には一人しかいないんだが……。
二人が遠くへと通り過ぎたのを見計らって、道の真ん中へと歩み出る。視線を右手に向ければ、先ほどの二人の背中。遠ざかって行くそいつ等の横顔を、よくよく見れば、どことなく見覚えがある事に気が付いた。
と言っても、片方だけ。オレから見て右側を歩いてる、男。
黒髪短髪で、オレより少し背が低いくらいの平凡な、コイツは……確かそう。クラスメイトの……白井にちょっかい出してんのが、バレッバレの馬鹿だ。
なるほど、コイツなら白井の話題を口にしてたっておかしくは無い。
……無いが。
その事に対して、奇妙にイラついている自分が居る。
なんだってのか、オレ自身にも良く分からない。
理解できない自分の感情に対して、そのイライラは更に肥大化して。
気付いたらオレは、踵を返して歩を進めていた。
目的地を決めたつもりなんてなかった。
ただ当て所も無く歩いていただけ。
ただそれだけだった筈なんだ。
なのに、ふと、足を止めれば……。
最後にアイツを見た川橋の中心に立っていた――――
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