◇ Ⅵ - ⅱ ◇ ⅩⅩⅩ ◇
『怖い』っていうのは、たぶん、世界に産まれてしまえば、誰も彼もが体験出来る、よくある感情の一つな筈だ。少なくともオレは、大なり小なりの怖い体験を他人に話せる。
やれ、子供の頃は夜のトイレが酷く怖かっただの、やれ、神社の井戸は何故だか無意味に怖かっただの、やれ、怒った親は世界で一番怖いだの、親が死ぬかもしれないという時間はこんなにも怖いものなのか、孤独とはこんなにも寂しくて怖いものなのか、怒った友人はこんなに怖いものだったのか。
……些末なものからオレにとっては中々重要な事まで……なんにせよ、人間として産まれたならば怖い思いの一つや二つするはずだ。
でも、きっと、この恐怖は人生で一度。
一度きりの自分の人生。
産まれて終わるまでの、ただ一回。
『死ぬかもしれない』
身震いなんてものも起きない。
ただ漠然とある、『死ぬ』、恐怖。
「――――二人ともここに隠れて!」
「えっ? と、時君っ?」
逃げて、逃げて、逃げて、逃げた。
二人――京子ちゃんとハルちゃんの背中を、形だけだけど守るようにして走って、時々進路に現れるアイツに効きやしない銃弾を浴びせて、とにかく、走って、走って、逃げた。
住宅地なのに人っ子一人いない道を気味悪く思ったり、なんだかアイツに逃げ道を誘導されてるような感覚があったり、でも結局『ああ、またアイツの思惑通りか』なんて、思っちゃったりしてるオレもいて、そんなオレすらも、なんだかアイツの思い通りの事を思ってるような感じがして。
『本当に、なんでこんな事になったのか』
後悔……じゃない。
疑問だ。だたの疑問。
でもアイツは、そんなこっちの疑問になんて答えちゃくれない。ただ薄ら寒い笑顔で、赤い閃光を走らせるだけ。しかも、オレ達に当たらないようにわざと外して、自分の思い通りの道へと誘導する。
そして誘導されたのは、人が離れて大分経ったのだろう『廃倉庫』。
半壊状態の分厚い鉄の壁が寒々しい外観だった。だけど体感的にはそう寒くない。屋根も壁も分厚い鉄で出来ているので、風の冷たさを防いでいるんだろう。今にも全壊しそうな雰囲気の癖に、中々の根性をこの建て物は持っているようだった。
『だからどうした』
なんて言われたら悲しいけど、今はその頑丈さが心強いのだ。
倉庫内の隅にある……たぶん、管理部屋か何かだろう一室。この倉庫に駆け込んですぐその部屋を見つけたオレは、京子ちゃんとハルちゃんをその部屋へと、半ば無理やり押し込んで扉を閉めた。
アイツには、こんな篭城作戦無駄な気がしてならないけど、周りは一応鉄の壁で囲まれているのだから、無いよりはましだ。
「待って時君! 時君はっ? どうして時君だけ外にいるのっ?」
背中で押さえつける扉を、二人が叫びながらに力いっぱい押しやってくるが、外に出す訳にはいかないので、申し訳ないけど無視させて頂いた。でも、心配されるのは嬉しいので、ついつい、表情筋がゆるんでしまう。気を引き締めても、またにやける。どうしよう、オレの筋肉、空気読めない。
いや駄目だ。
弱気になったらそこで負けだ。
頑張れオレ!
空気読めオレ!
「オレが勇者だっ。オレが勇者だっ。オレが勇者だっ。オレが勇者だっ」
「ははは! ねえそれって呪文か何かかい? 変身するの?」
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