◇ Ⅵ - ⅴ ◇ ⅩⅩⅩ ◇
「…………く……そっ」
「……足掻く事はないだろう。君が死ねば彼女達は助かるんだ」
「だからって、そう簡単に死ねるかよっ!」
「……結局、口先だけという事なのか」
「違う!!」
違う。
そう違う。
彼女達の為に、オレは確かに、死ねる。だけど、それじゃあ駄目なんだと、オレは思う。自分の命を一方的に押し付けるその行為は、押し付けられる相手にとったらとても重いだろう。『自分の為に誰かが死ぬ』『自分の所為で誰かの人生がそこで終わる』。それは、とても、重たい、想いなはずだ。
『誰かの為に』なんて、簡単に死んではいけない。
足掻けるのなら徹底的に足掻くべきだ。それこそ、後ろにいる彼女達を守る為に、自分自身が生きる為に、全員が生きる為に、死ぬなら死ぬで、最後まで必死に生きてから死ぬべきだ。
だからこそ――――
「オレは絶対に、死ぬ為になんて、死んでやらない」
「………………」
「どうせ死ぬなら、生きる為に、生きて――――死ぬ!」
引き金を引いた。
回転式小型拳銃の弾装から、破裂音と銃弾が弾ける。
リボーンから『予備に』と渡されていた小型拳銃なのだが、威力が低いとの事だったので『そんなの持ってて役に立つのか?』と、思っていたのだけど、これはあの鬼教師に謝らなければならないかもしれない。
オレの真ん前に立っていたアイツにも『不意』という事態はあるらしくって、懐に忍ばせていた銃を取り出して、照準もままならないままに、すぐ撃ち放てば、なんとなんと、見事にお腹へと命中してしまった。
運がいいと言うかなんと言うか、悪運が強くて何よりだった。
「やっ、やった――――」
「………………くくくく」
もう何度目かの、天国から地獄に叩き落される感覚、笑えない。
「馬鹿だなあ……君は」
「ほ、んとうに、ね……っ」
ああ、たぶん……これが絶望だ。
「…………はあっ」
何時そうなってしまっていたのか……分からない。
人間なんかの感覚じゃ掴めないほどの、一瞬だったんだろう。
体の違和感に視線を下ろせば、腹部に刺さる赤い硝子のような、それ。
痛い、よりも、腹部が圧迫されて、熱を持って、苦しいような感覚の方が大きい。いや、それがもしかしたら、痛い、という感覚なのかもしれないけれど、正直なところ、こんな大怪我した事はないので、自分でも良く分からない感覚だ。
ただ、とりあえず言える事といえば。
『死ぬ恐怖』
人生で初の感覚が、オレの全身を襲ったのは、確かだった。
(なんだこれ……血が止まらないって)
漫画などでよく黒く塗りつぶされて表現されるそれが、オレの体の外へと、どんどん流れ出ていく。生温かくて気持ちが悪いが、そんな事を言っている場合じゃあない。場合じゃあないのは分かっている。だけど、どうする事も、今のオレは出来なかった。出来る状態じゃなかった。
まずい、と思う。
このまま血が止まらなかったら死んでしまう。
死んでしまったら京子ちゃん達をどうしたらいいのか。
一体誰がこの状況で彼女達を守るのか。
目の前のヤツが笑う。
イラッとする嘲笑だ。
その笑顔すらも霞む。
視界が霞む。
音が消える。
世界が閉じるような感覚が、全神経に走る。
(まだ…………死にたくない。死ねないっ)
未練がましい人間なのは、昔から良く良く分かっていた。でも、諦めるよりも、そこで終わるよりも、未練たらたらでしがみ付く方が、オレはずっといいと思って生きていたんだ。
諦めなければ、終わらない。
諦めなければ、まだ、終われない――――
――――だからこの人は、来たんだろう。
「これ以上の悪行非道は、この笹川了平が許さん――――っ!!」
「……おや、ヒーローの登場だ」
そう、この世界は、こういう世界なんだ。
死ぬ気で足掻いて、死ぬ気で生きて、死ぬ気で頑張って。簡単に終わっちゃいけない。最後まで死ぬ気でなくちゃいけない。無茶苦茶で、はちゃめちゃで、無謀で馬鹿で、それでも魂は、きらっきらに輝いていて。
……ああ、やっぱり――――大好きだ。
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