◇ Ⅵ - ⅲ ◇ ⅩⅩⅩ ◇
自分を奮い立たせる為の……癪だがアイツの言うとおりの『呪文』を並べ立ててたら、それを小馬鹿にするような声が倉庫内へと響いてきた。
けど、声はすれども姿は見えずで……とりあえずオレの見える範囲にはいないのは確かなようだ。聞こえる声から場所を探ろうとしてみたけど、声が倉庫内で反響して場所の特定はできなかった。
「くそ! どこだ! 出て来い!」
「さて、ワタシが出てきたとして、君は一体どうするんだい? 効きもしない鉛弾をこのワタシにぶち込むのか? それとも、そこいらに転がっている鉄の破片や硝子の破片でも投げつけて些細な抵抗でもしてみるのか? くくく、懸命な事だ。面白いね。紙っぺらの中の人間に過ぎないその子達を守ったって君に得なんてないのに、それでも守るんだ」
「うるさいっ!!」
銃撃。
今ので一体何発目だったのか。リボーンやディーノさんに『撃った弾の数は覚えておけ』と言われていたけど、今のオレに弾の数なんて数えている余裕はない。そもそも、何をどう撃ったって効きやしない相手なんだ。弾が有っても無くても同じなんではないかと、つい弱気になってしまう。
……ていうか、空中に撃ってる時点でどうなんだ。
(怖い)
でも……でもオレは素人なんだ。
戦場に出た事もない、平和ボケが過ぎる日本で、のらりくらりと生きてきた、ただのオタクだ。銃なんてゲームの中でしか使ってなかった。こんな異常な状況、創作物の中だけだった。ましてや『死ぬかもしれない』なんて、こんな状況で……一体どうしろっていうんだ。
(…………だけど)
怖い。
怖い、怖い、怖い、怖い、凄く怖い。
でも、やらなくちゃならない。
オレの後ろでは、女の子二人が震えてるんだ。オレですら怖いこの状況で、怖くて怖くて怯えてるんだ。だったらやるしかないだろう。女の子は守らなくちゃいけないだろう。大人なら子供を守るのが当然だろう。
死なせちゃいけないんだよ。
守らなくちゃいけないんだ。
やらなきゃならないんだ。
「…………オレが勇者だっ」
紙っぺらだなんて言わせない。
オレが見てきたみんなは、ちゃんと生きてる。
紙の上だけの『物語』じゃない。
ちゃんとみんな、自分の『人生』を、それぞれ生きていた。
泣いて、笑って、怒って、傷ついて、オレの声に答えてくれて、オレの手が体温を感じて、そこにいて、すぐ傍にいて――――
みんな、ちゃんと人間だった。
「……命を賭しても悔いのない存在か?」
「――――っ!」
頭上の、何も無い空間。
そこが歪んで、オレを模した姿ではない“ヤツ”が現れた。
全身を黒皮の素材で包み、風になびく黒髪が美しい妖艶な女性。
けれど、それが本当の姿なのかどうかは、分からない。
「君の命と引き換えに、彼女達を助けてやろう。君が死ねば今後一切、この町の秩序を乱す様な事はしないと誓おう……だとするならば、君は“この世界”で死ねるのか?」
「…………」
赤い眼でオレを見下ろしながら言うソイツは、少し……様子が何時もと違った。何時もは、作り物の様な笑顔を顔に貼り付けて、何処か他人を小馬鹿にしたような……そんな態度で、オレ達の前に現れていた。
だけど、今は凄く……真剣だ。
何時も何時も、色々な面でふざけた存在だったのに、急にだ。急に、真面目に『死ねるのか?』と聞いてくる。そんなもんだから『オレは死ぬのか?』と思ってしまう。
一体……なんだ?
「死ねるのか?」
「………………」
「君のいた世界ではないこの世界で、君は死ねるのか?」
どうだろうか。
オレはここで、死ねるだろうか。
死んでしまえば、以前暮らしていた世界に帰れる手段が見つかったとしても、帰る肉体がないんだから、もう帰る事なんて出来ないんだろう。友達にも会えなくなる。
いやそれよりも死ぬ訳だから、オレの人生それで終わりだ。
美味しい物だって食べれないし、好きなゲームももう出来ない、漫画も読めない、アニメも見れない、何それに萌えたり、何それに萎えたり、ちっぽけな夢を見る事も、でっかい夢を見る事も、もう叶わない。
つまりはそれが、死ぬ、と言う事だ。
それをオレは、今、ここで、出来るのか?
違う世界に来たとか言う、訳の分からない状態のままで、元の世界にも帰れないまま、向こうの友達にも会えないまま、訳の分からない奴に殺されて、後ろの女の子達の為に死ねるのか?
「ああ、死ねる」
言葉はあっさり出た。
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