◆ Ⅸ - ⅲ ◆ ⅩⅩⅩ ◆
神様。
信仰の対象。
いるかもしれない。
いないかもしれない。
いいやいるのだ、そう言う人もいる。
いいやいないだろう、そう言う人もいる。
だけど証明できる人は、一人もいない。
信じているだけ、否定しているだけの、感覚的な話でしかなくて、証明できるほど確定的な話じゃあないから、それが普通で正解だ。
そもそも、人間が存在を証明出来てしまう存在が『神様』であるとするのなら、それは、なんだか『神様』と呼ぶには、あんまりにも身近すぎるのじゃないだろうか。
神様は人間よりもずっと遠い位置にいるから、尊いんだと思う。
不確定で、不安定で、曖昧で、だからこその『神様像』だろう。
だけど、今、オレの目の前にいるコイツはどうだ。
自分を『神様だ』と言った。
けど、オレとしては『何を言っているんだコイツは』状態だ。
『神様』って言うのは、そうそう人様の前に姿を見せるもんじゃないだろうと、オレ的には深々思う。良く分からない存在だから、なんだか凄いなあ、と思うのであって、ほいほいと姿形や存在が見えてしまったんでは、そう、例えばこんな風に目の前に現れて、『神様です』なんて言われてもだ、なんというか、実に嘘臭い。
だからこそオレは、『神様さ』と言うヤツに否定の言葉を返す。
だってそれが多分、オレの頭で出来る精一杯だったから。
「……馬鹿にしてんのかよ」
「あっはっはっは! そう来るか!」
笑われる。
まるでオレが間違った返答をしたみたいに、ヤツは笑った。
じゃあ、オレが間違っているのか?
人間の形をして、今まさにオレを笑っている『神様』を否定したから?
……オレが間違っているのか?
「か……み様なわけあるもんかっ」
「はは。世界の移動は許容出来ても、神の存在は許容できないのか」
「か、かか神様って、イエス様だろうっ」
「ならば、その人物が神であるという証明をしてみろ」
……それは、勿論、出来ない。
『神様の証明』なんて難題を解いた人間なんて、きっとこの世の何処にもいないんじゃないだろうか。ていうか、いないだろうよ。だって『神様』だぞ。合格祈願とか、安産祈願とか、恋愛成就だの、世界征服だのをお願いして、叶えてくれるかもしれない、どでかい、なんか物凄い存在だぞ。
そんな、人間を何億倍も上回っている、会った事もない御方の存在証明を、こんなしがないオタク畜生に出来るわけがないだろう。
でも、だからって“こんなの”を神様って認めるのも嫌じゃないか。
「……も、いいっ、お前がなんだろうが、知、らんっ」
「ああ、そうだ。ワタシが神であるか否かなんてどうでもいい」
こんなヤツに、構っている暇はない。
オレの身体的にも、兄さんの身体的にも、コイツの茶番に付き合っている暇はなかった。だから、ヤツを無視して兄さんを拘束している、なんぞアメ細工みたいな、兄さん型の“なにか”に蹴りでも食らわせてやろうと思って、体を起こそうとした。よくよく考えると、オレが動いたら背後の扉が開いてしまうので、動くに動けない状態だったんだが。
それはもう、過ぎた事だ。
オレがヤツの屁理屈を無視して起こそうとした体は、ヤツが何やらを呟いた後に起こしたんだろう“事”によって動きを止めた。だから、もう動いた後の結果なんて、この流れではどうでもいいのだ。
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