◆ Ⅸ - ⅳ ◆ ⅩⅩⅩ ◆
「――――っぐ!!」
兄さんが大きく呻いた事で、オレの意識は瞬間的にそちらへ移動する。
体制は先ほどから変わっていないが、明らかに兄さんの苦しみ方だけは変化している。一瞬前までは、確かに苦しそうではあったけど、すぐにどうにかなるような状態ではなかった。
けど今は直に首を掴まれて、ぎりぎりと締め上げられているような、嫌な表現をすれば、首の骨を折られようとしているような、そんな感じだ。
「兄さんっ!!」
「……彼をあのまま吊り下げた状態で、酸欠になるのを待つのも一興だろう……が、どうにもまどろっこしいので、そう……例えば、ワタシが“あれ”に向かって『その首をへし折れ』なんて言ってしまえば、間もなく彼は事切れるんだろうな」
「……っおまえ!」
「そして、君はそれを見て悲しむんだろう。嘆くんだろう。後ろにいる少女の事を想って、更に心を痛めるんだろうな。やさしいな。この世界を愛してしまっているんだな」
飄々と、飄々と言葉を並び立てる。
そうだとも。
オレはこの世界が大好きだ。
きらきらと輝いて、青臭くって、がむしゃらに生き抜いて、死ぬ気であがいて、無様かもしれない、格好の良いもんじゃないかもしれない、むしろ未練たらたらで格好悪いと思われるかもしれない、だけど、それがいいんだよ。
人間臭くて、馬鹿みたいで、諦め悪くて、一生懸命で、そんな風になんて簡単には生きれないだろう。そんな、必死に生きるなんて簡単に出来るもんじゃないだろう。
だから憧れる。その青臭さに。
だから大好きなんだ。あの無謀っぷりが。
だから嫌なんだよ。この世界がオレの所為で滅茶苦茶になるのなんて。
――――絶対に嫌だ。
「……ならば選べ」
青い眼がオレを睨み付ける。
「この世界に命を捧げるか。それとも、この世界を見捨てて、自分の世界を重んじるか。選択は一つだ。“あちら”か“こちら”か。君は、さて、どちらに依存するのか……」
『あちら』――これはたぶん、オレが元居た世界か。
『こちら』――そして、これは、この『REBORN!』の世界。
その二つを並べて、オレに選べと、突きつけてくる。
あっちを諦めて、こっちで、死ぬか。
こっちを見捨てて、あっちへ、逃げるか。
どちらかを、選ばなければならないんだろう。だけど、深く考えなくても分かる事じゃないだろうか。わざわざ訊かなくても、答えなんて一つしかないんじゃないのか。どうして確認を取るんだ。オレはそんなに、悩んでいたか……?
「そんなの……答えなんて、決まって――――」
「――――本当にそうか?」
右手の平上の空間へと何かを出したヤツが、そう問う。
そして、その出した何かを、オレの方へと投げた。
足元へ何かが落ちる。
へたり込んでいるオレの、丁度目の前。
手の平に乗るほどの大きさをした、長方形の物体。
質感的に、磨かれた金属を思わせる青色のそれは、随分と久しぶりに見るものだった。付属物として付いている、デフォルメされた女の子の人形は、オレが大好きなキャラクターで、実は家に、もう何種類かあったりする。本当のところは、もっと沢山付けたいのだけど、それの利用頻度を考えると、あまり多いのも困るなと思って付けるのを自重している。
そういえば。
こんなに長い期間『携帯電話』を手放したのは初めてだ。
「オレ……のっ」
何故、これがここに。
何故、コイツがこれを。
何故、こんな時にそれを……
「結論を出すその前に、一つ、ワタシから君にプレゼントを送ろうか」
にやり、と笑うヤツの意図が全く読めない。
いや、今に始まった事ではないけれど、今更こんな物をオレの目の前に出して、一体何を考えているのか、それを思うと酷く不安になる。
勿論、何が起こるのか、なんて分からない。だけど、何かが……何かがオレの中の不安を煽る。それと同時に、何かがオレに、期待をさせる。
『携帯電話』と『自称神様』
オレと、オレの元居た世界を繋いでくれるかもしれない二つ。
それが今は、とても怖い。
もしも今、自分の世界の何かを見せられたら、オレはきっと尻込みしてしまう。自分の世界じゃない世界で、今にも死にそうな自分に、思い出の沢山ある『いままで』を見せられたら、死ぬ事を怖がっている自分が躊躇わずに出てきてしまう。人間として当然の『弱音』だ。だけど、今は駄目なんだ。
断ち切りたくない繋がりだってある。やり残してきた事だって、思いのほか沢山ある。まだまだ、あの場所を捨てるには早すぎる。もっと、もっと、あの場所で生きていたいと思う。居心地が良いか、と訊かれたら困るけど、手放せるかと訊かれたら、答えは簡単なそんなものを、そんな思い出を、今見せられたら――――
《――――時ちゃ〜ん! 旅は楽しんでる〜?》
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