ⅩⅩⅩⅨ - 人皆旅人

◆ Ⅸ - ⅵ ◆ ⅩⅩⅩ ◆

 思いっきり、青い眼を睨み付ける。
 嘘じゃないと、ざまあみろと、吠え面かけと、感情を叩きつける。

 死んで欲しくない。
 消えて欲しくない。

 死にたくない。
 消えたくない。

 卑怯者はいやだ。
 臆病者はいやだ。

 身勝手だ。
 とても身勝手な感情ばかりだ。

 勝手に好きになって、勝手にこの世界に来て、勝手に巻き込んで、勝手に助けて、勝手に死んで、勝手ばっかりして……英雄になんか成れもしない、端役も端役のなんて押し付けがましい、わがままだろう。

 だけど、それでも……

「……それでも、オレはこっちを選ぶ」

 ごめん、としか言いようがない。
 この世界の人間でもないのに、勝手してごめん。

「しろ……っ!!」
「ごめん……ごめんなさい」

 怒るんだろうな、と思う。
 勝手して、きっとオレは怒られる。
 でも、死んじゃってるから、やり逃げの勝ち逃げだ。

「……もし、オレを殺した後に、兄さん達を殺したら、呪い殺す、かも」
「……君は本当にこちらを選ぶのか?」

 大層驚いた顔で、そんな事を訊いてきた。
 小首を傾げて、まるで子供みたいに。

「……そうだよ。こっちを選ぶんだよ」
「……どうして?」
「わがままだよ」

 ――――そして、好きだからだよ。

 後ろの扉に背中を預けて、空を見上げる。
 月はもう見えない。だけど、星がとても綺麗に見える。

 きっと『紙』のような世界であったなら、死んでまで守ろうとは思わなかったんだろうに違いない。だけど、この世界には『温度』があった。

『心』があった。
『魂』があった。

 それは確かに、輝いていた。

 オレの世界では、ありえないくらいに眩しい世界だった。

「綺麗だった……本当に、綺麗な世界だった。みんな、優しいし、暖かいし、全然『紙』じゃなかった。そりゃ……一部しか見れてないかもしれないけど、あんなに青臭く生きたって、オレの世界じゃ笑われて終わるだけだろうに、だけどここだと、あんなにきらきら輝けるんだ」

 それがどんなに凄い事か分からないだろう?

「『誰かの為に死ぬ』……なんてヒーローみたいで格好良くない?」
「だから、ここで、死ぬのか、君は」
「そう……なる、のか」

 どうした事か、怒ったり、泣いたりして、テンション上げすぎた所為だろうか、さっきよりもずっと頭がくらくらしてきた。血を流しすぎたようだ。これが『死ぬ』という事なのだろうか。

「そうか……そうなのか」
「……っ! しろい!!」
「――――ありがとう」

 奇妙な言葉が耳に届いた事に、はっとして眼を開ける。
 そしたら、世界が青白く発光していた。

「――――時っ!!」

 今度は聞きなれた声と、自分の名前だ。

 顔だけを左の方へと向けたら、青白い光の向こう側――建物の入り口に見知った顔がいくつか見える。けれど、ものを思う前にすぐ、ヤツがつらつらと言葉を並び立てて、行動を起こしだした。

「ワタシは君に感謝するよ。どれだけしてもしきれない。けれども、きっと、その感謝を君は蹴落とすんだろうな。当たり前だ。こちらの世界に閉じ込めるのだから。恨んで、当然。憎んで、当然。それが、当然」

 ヤツがオレの方へと靴音を響かせながらに光の中を進んでくる。
 もうオレの体は動かない。いやむしろ、どういう事か、動けない。
 
 オレの足裏に、ヤツのつま先が当たる。

「別に、好かれようだなんて、都合の良い事は考えていないんだがね……私も焼きが回ったのかな。少しだけ……寂しいし、申し訳ないから、せめて、全力で君に力は貸すよ」

 光が、うんと強くなる。

「――――君の存在はここに確定される」

 ――――刻まれるモノは君の存在。賭けるべき代償は君の記憶。要求される機能は強さ。与えたらん魂は秩序。君は、この世界の英雄になる。これは君が選んで、掴んだ未来だ。選んだからこそ、与えよう。選んだからこそ、ワタシは願おう――――

「どうか君に――――」

 ――――神の祝福を。

 そこでオレの意識は、すとん、と落ちた。

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