Ⅸ - 人皆旅人

◆ Ⅸ - ⅲ ◆

 閣下の突然のご登場に、オレの傍にいた三人だけでなく、周りで昼食をとっていた生徒達も声をあげる。阿鼻叫喚、と言って差し支えはない。

「もういっそ殺してください。一思いに殺して下さい。ああ最後にミクちゃんの歌聞きたかった! せめて聞きながら没りたかった……!」

 一番お気に入りのヤツ。
 涙ながらの訴えであったわけだが、あはん。

「僕が誰かの頼みなんて聞くと思うかい?」

 ですよねっ。聞いたオレが馬鹿でしたっ。
 この人に聞いたオレが、愚か者のお馬鹿さんでしたっ。

「……君って本当に珍妙だね……まあいい、草壁」

 珍妙って……なんだその尋常じゃない表現。
 否定したい……が、否定できないオレもいる。袋小路だと。

 閣下のお言葉に対して、どうでもいい自問自答を、うんうん唸ってしていれば、閣下が人を呼ぶ声が耳に届く。草壁……とは、あの閣下のお傍で仕え……失礼、補佐なさっている頭戦艦ヤマトの風紀委員さんか?

 草壁、と呼ばれた草壁さんが、閣下の後ろから、はい、と返事をして姿を現す。そしてそのまま、座っているオレに近づいてきて、手に持っている黒いファイルを、オレへと手渡す。

「……なんですかコレ」

 ファイルを受け取らずに(疑心暗鬼と言う事なかれ)草壁さんの手に持たれている状態のまま見て問うと、ボス(雲雀さん)とは違い至極丁寧に答えてくれる見た目不良の草壁さん。同じ委員とは思えない。

「とにかく見てからだ。話はその後に」

 うん。
 自分より年下の筈なのに、従っちゃう謎。

 事の行く末を見守るツナ達三人と一般生徒達の視線に晒されながら、草壁さんからファイルを受け取る。表立っては何も書かれていない黒いファイルを、少し警戒しながら開くと、ファイルの機能を活用して何枚かの書類が閉じられていた。そして、紙に書かれた内容に目を凝らせば――――

「……入……学……手続………………………………………………き??」

 何で閣下がこんなモノ……?

 疑問符を浮かべれば、閣下がオレに近づいて来て――来るな――すらりとした身を屈め、オレの耳元に少し押さえた声で言葉を紡ぐ(来るな)。

「……君の情報。この国、この世界の何処を探しても、一欠けらも見つからなかったよ。それはもう、見事なまでに何も……ね」
「………………っ」

 この短時間で調べたんすか……!?

 雲雀恭弥という人間の情報収集能力の高さに恐怖。近くにいたツナ達にも、その言葉は聞こえたらしく、少しだけ体が跳ねたのが視界の端に入ってきた。

「……だっ、だから……なんでしょうか……っ?」
「頭が弱いの? 理解しなよ」
「すみませんねっ、どうせ閣下みたいに万能人間じゃありませんよっ」

 無知で阿呆なオレに対して、盛大な溜め息を吐いた閣下に、今にも掴みかかりそうなオレであったが、くしくも閣下の補佐である草壁さんに止められ、しぶしぶ平静を取り戻す。

「落ち着け。国の援助を受けられないお前を、委員長が自分の力を行使して、並盛中学に通わせる、と言う事なんだ……あまり気を立てるな」

 閣下と同じように、屈んでから耳元で話す、草壁さん。 
 草壁さんって父さんみたい……年下だけど。
 ……って、そうでなくて。

 ……何? 力を行使? 力? 権力? 暴力?
 いや、やっぱいい、聞くとあの世からのお迎えが来そう、精神的に。
 でも、逃避はしとこうと思う。

「そんな事出来る訳――――」

 とりあえずの逃避。
 しかし、それも空しく、閣下のお言葉で消えさってしまう。

「僕を誰だと思ってるの?」

 ………………。

 雲雀恭弥大統領でした。もう怖いなんてレベルじゃない。生き物に見えない。人類に見えない。この世界って何でもありだったけど――漫画の世界だから当然ではあるが――本当にどうにでもなるようだ……彼限定とか言わないで欲しいけど。

「一応言っておくけど、これは“君”の為にした訳ではないよ。あくまでも“僕”の暇つぶしの為だから。そこの所無い頭に叩き込んでおいてね」

 ……放心くらい静かにさせてくれ。そう半眼で睨むが、ガン無視して、それから――と、少し怖い……もとい少し楽しそうな顔をして、更に言葉を続ける、自由すぎる風紀委員長。

「それから、君をこの学校に通わせるに当たって、色々と労力を使ったんだ。タダで通わせるのはつまらないよね?」
「……………………んなこたぁないですよ」
「だから……」

 シカトが標準装備だと……!?

「……だから、君には“風紀の狗”として、働いて貰う」

“犬”と、そう高圧的に言う姿はまさに、暴君。
 オレ含め、ボンゴレ一同フリーズだ。

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