ⅩⅤ - 人皆旅人

◆ Ⅴ - ⅵ ◆ Ⅹ ◆

 筆跡偽造は文書偽造罪にあたる、刑法に定められた犯罪である。
 だからどうした、と、この殺し屋畜生なら蹴落とすと思う。
 なので、もう、どうでもいいのである。

 ……でも、諦めたらそこで負けなんだよ!

「もう書かれちまったもんは、しょうがねぇだろ」
「なくない! しょがなくない!」
「だって……だって……時に、書け、って言ったって書いてくれないだろうから、代わりに書いただけだもん。俺は何も悪くねえもん……」

 激ムカ!!!!

「ふ、ふふふふ……ツナの気持ちが今ひしひしと分かったよっ。このおっさんに一体全体、どう復讐してやればいいだろうか。やっぱ閣下とセットで呪ってやるのが妥当なんだろうかっ!」
「落ち着け、お前が言うと洒落にならねぇ」
「近くに神社はあったかな! なるべく人が来なさそうな!」
「「「………………」」」

 傍の三人にドン引きされている気がしたけれど、気にしない。

 だけど、丑の刻参りに意識を飛ばしている最中に、傍からか細くすすり泣く声が聞こえてきたら、流石に気にはする。っていうか、気にせずには折れない。

 霊的な何かか? と、びびりつつ声の出所を探れば、オレの足元。右足のズボンの裾をくいくい引っ張っている牛柄の服を着たアフロ少年が、鼻水を垂らして泣いているのを発見。

 イタリアのホルスタイン(誤情報)のランボだ。

「ランボさんも? ランボさんもキライになったからのろう?」

 顔は、鼻水と涙でぐちゃぐちゃになっていて、オレのズボンを引っ張っている左手には結構力が入っている。右手の先には心細くて一緒に来てもらったのか、イーピンが困った顔で立っていた。

 しかし……どうして泣いてる?

「どうしたランボ? 時さんがランボを嫌いになる訳な無いだろう?」

 足元のランボをイーピンごと抱きかかえて、膝の上に置く。
 その場の全員が、オレとランボの会話に耳を傾けた。

「ううっ……だって、トキの足、ランボさんのせいでボロボロじゃんっ」
「……ん?」

 そう言われて自分の足元を見る。視線の先には包帯を巻かれたオレの左足。怪我の経緯は、ランボの投げた手榴弾のピンが不可抗力で外れてしまい、オレの足元で爆発した為。

 なるほど、そう言う事か。

「なんだー、大将ー、いつもなら『ランボさんは悪くないもんねー』って言うのに、今日はやけに素直だなー、何か悪いものでも食べたのかー?」
「……っう!」

 怒られるとでも思っているのか、オレの膝の上の小さな体が強張った。
 ふふふ、可愛……サディスティック的欲求からの感覚では決してない。

「大丈夫だよーランボ。時さん怒ってないから」
「……う?」
「あれは、ランボが悪い訳じゃないって。不可抗力。不可抗力。世の中どんな力が作用して何が起こるか分からない、ってー事だな」
「……ランボさんわるくない?」
「悪くない、悪くない。強いて言うなら、あんなもん持たせたボヴィーノのボスが悪い。更に言うならあんなもん開発した、軍事バカが悪い」

 それに。

「それにランボは、ちゃんとオレに謝ってくれただろう? それで良いんだよ。心配してくれてありがとうな、ランボ」

 そう言ってアフロ頭をわしゃわしゃと掻き混ぜてやったら、やっと自分の状況を理解したようで、嬉しそうに顔を綻ばせた。そんなランボを見て安心したのか、イーピンも一緒になって笑顔で、わいのわいの。

 かあ、わあ、いい、いい〜!

「良カッタ、ランボ! 誠心誠意!」
「うぇへへ〜! ねぇトキー、もっかいなでて〜!!」
「お〜お〜、元気になったな〜」

 リクエストに答えてもう一回撫でてやったら『もっと〜』とか言ってせがんで来たので、とりあえず右手を始終動かす事にした。結構色々なものが手に当たるけど、無視。

 そしての、抗議再開。

「で、筆跡返せ」
「っち、忘れとけ」

 甘い。

「……入ったらどうだ?」
「「「え゛???」」」

 オレが抗議を再開したら、なんと言う事でしょう。ディーノさんがオレのファミリー入りを、推奨するじゃありませんか。オレだけじゃなく、学生ズまでもが、ディーノさんに向けて『何考えてんの』視線を一斉に向けた。そんなオレ達に、少々驚きつつも言葉を続けるディーノさん。

「いや、今の……ボヴィーノん所の、ちっちゃいのとの会話見てて思ったんだけどな、結構いい要になるんじゃないかと思って……なんだが」
「……かなめ? ……お、オレが?」
「ああ、なんつーか……うーん、上手く言えないんだけどな、多分リボーンもそう思っての事だろう? こいつをファミリーに入れるってのは」

 そう言って、ディーノさんの視線が、オレからリボーンへと変わる。オレ達も、ディーノさんの視線を真似するようにして、リボーンへと視線を送った。

「それだけじゃねぇけどな、まあそんな所だ」
「嘘だ! 適当だ! 適当に決まってる!」
「分かった。ちょっと歯ぁ食いしばれ!」

 雲行きが怪しくなった!

「いや、ちょっと待て旦那! 主にその銃! それからディーノさんも! オレの弱さを甘く見るな! 逃げ足は速くても、強さが微塵もない!」
「雲雀に一発食らわしたじゃねぇか」
「いやいやいやいやいやいやっ! 思い出させるな! あれは運命のいたずらだ! 不可抗力だ! 運が悪かったんだ! アンラッキー!」
「獄寺の攻撃回避したじゃねぇか」
「コラコラコラコラコラコラっ! 本人の前で何を言うんだね! あれはオレの生きる事への執念でしかない! ゴキブリ並みの執念なだけだ!」
「尋常じゃねぇ逃げ足あって、尋常じゃねぇ運もあって、尋常じゃねぇ生きる事への執念もあって。ばっちりじゃねぇか」

 ぐっ!
 ……って、親指突き立てられても変わんないからねっ!

「て言うか、尋常じゃねぇ、付けてるだけじゃないか!」
「はは! いいじゃねぇか! リボーンがここまで言うんだったら問題ねぇだろ! リボーンお墨付きの尋常のなさなんだよ、お前は!」
「おおおおいっ! 何気に酷い事言ったな今畜生! おいごっ君、君からも言ってやってくれ『こんなヘタレは盾にもなりゃしない』ってさ!」
「いや、盾にはなるだろ」

 …………………………終わった。
 なんか何もかもが終焉を迎えた。

 ……うん。うん、分かった。
 人間諦めって大事だ。
 人生に一度くらいある。あるある、こういう状況。
 妥協だ……マフィアにぐらい妥協してなれる。

「分かったよ。なるよ。なればいいんだろ」
「ええ゛!? だ、大丈夫、時!?」
「大丈夫だよ。手からなんか『波』は出ないけどさ、空飛んだり、融合したり、スーパーなナニになったり……出来ない民間人だけどさ」

 まあ……生きていけるんじゃないかな。

「十代目……こいつ、脳細胞が死滅しています」
「は……はは……」

 意気消沈するオレ。
 苦笑するツナ。
 哀れむごっ君。

 会話の内容は残念な感じだけど、学校で別れた時のオレ達と比べば、大分と元の感じになって来ている気がする。精神的には、どこぞの赤ん坊の所為でダメージ食らってる時さんではあるけれど、正直、何処か嬉しいものがある。『ファミリー』って……なんだか照れくさいし、少しばかり物騒だけれど。


 ……うん。悪くない。


 二人の気持ちが、今、どうなってるのか、オレには分からない。
 二人が、今、オレの事をどう思っているのか分からない。


 分からないけれど。


 その、少しだけの二人の笑顔が、今、もの凄く嬉しい――――

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