◇ Ⅷ - ⅲ ◇ Ⅹ ◇
――――声を掛けたらいきなり取り乱した少女に、その場の全員が戸惑う。勿論、声を掛けた当のオレも、どうすればいいのか分からずに立ち尽くした。
とりあえずの行動としては、その少女に刺激を与えないように後ずさる事だけだったのだけれど、距離を取っても少女は絶えずオレを拒絶する言葉を叫んで叫んで、体全体でオレの存在を否定していた。
『どうしてここに居るの?』
『どうしてあんな事したの?』
『近寄らないで』
『怖い怖い』
『イヤイヤイヤ』
『早くこの人を捕まえて』
『誰でも良いから早く早く』
何度も何度も、オレを否定する。見ているこっちが苦しくなるほどの、叫びだ。なんとか山さんが落ち着けてくれたから良かったものの、彼が居なかったら、と思うと憂鬱だ。
けれど、山さんが落ち着けたとは言え、オレが傍に居る以上少女が安心する事は出来ないようで、そんな少女に、そう冷静沈着でないオレも、どうしたものかと焦るばかりで――さっさとどっか行けば良かったのになあ――現状はちょっと、軽い混乱状態だった。
だけど流石に、あの閣下(雲雀恭弥閣下)はその現状に嫌気が差しておられたらしく、叫び続けていた少女のうなじに、強行手段の手刀を落として気絶させてしまわれた。
かの閣下とは言え、それは酷い、と物申すも、そんな状況を招いたオレが言った所で何の説得力も無いのは当然で、閣下の一睨みでオレは黙るしかなかった。
そうして、その場は静かになった訳なのだが、何も全てが丸く収まった訳ではない。見ないで済むなら見たくはないが、だけど確認せずにはおれないというか、オレは恐る恐る、ある人物達へと視線を向けた。
視線の先には、ツナ達三人の瞳。
――――彼らはこの状況を見てどう思っただろうか?
路地から出て来た、ボロボロの少女。
路地から出て来た、少女に怯えられた白井時。
路地から出て来た、オレを第一容疑者と言った雲雀恭弥。
見るのは怖かった。
彼等の瞳の色が何に染まっているのか、見るのはとても怖かった。だけど、見なければいけない、とも思っていた。見なければオレは、あの“オレ”に負ける様な気がした。見なければ三人との関係が終わってしまうような気がした。
だからオレは、三人の目をはっきりと見据えた。
見ようが、見まいが、結果は同じだったんだろうと思う。
彼等の瞳は見たくなかった色に染まっていた。
それを見たオレは、思いの他冷静だった。
この状況では、仕方がないか、と諦めとは違う落ち着き。
だって、少女がオレを見て取り乱せば、誰だってオレが犯人だって思う筈だ。そして、彼等はきっと、説明すればオレの言葉を聞いてくれる。だからあんまり焦りはしなかった。話せば聞いてくれる、オレの見てきた彼等はそんな人間だから。
だからオレは、話そうとしたんだ。
違うよ……って。
オレにそっくりな奴が居て、ソイツが事件の犯人だ……って。
まごうことなき真実。
オレと閣下が見た事実。
幻の様な、嘘の様な、本当の事を、話そうとしたんだ。
でも……出来なかった。
閣下……雲雀さんに止められた。
当たり前の事だった。
こんな取り繕ったような……嘘の様な事実を言ったって、現状を混乱させるだけだって、オレも分かっている筈なのに、どうしても認めたくなくて……言い訳を、したかったんだろう。この状況に対する、みんなに対する言い訳。オレの言葉を何でもいいから聞いて欲しい、要はわがままだ。
彼はそれを、簡単に見破っていたんだろうさ。
だから、余計な事をするオレを止めた。
その眼は凄く怖かった。
別に、怒気を含んでいた訳では無い。
その真っ黒な瞳が、孤独をオレに突きつけている様で。
怖かった。
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