ⅩⅧ - 人皆旅人

◇ Ⅷ - ⅵ ◇ Ⅹ ◇

「そんな顔……しないでくれよ」
「…………え」
「友達失格だなんて、そんなわけないだろう?」
「……けどさ」

 また。
 またそんな顔をする。

「山さんはオレを疑って……今は? 今も疑ってるのか?」
「そっ! そんな訳ねーだろ……っ! 時はあんな事しねーし! 何より時自身がやってないって言ってんだ、オレは時を信じる! きっとツナ達だって――――」
「ならそれでいいじゃないか」
「…………え」

 それでいいんだ。

「オレは別にちょっとぐらい疑われてもいいしさ、それに」
「そんな……っ!」
「まだ喋っとる!」
「あ……ああ、わりー」
「あのな、オレが『疑われてもいい』って、思える理由にはな――――」

『皆が信じてくれてる……ってのが、あるからなんだよ』

 どんだけ、想いが擦れ違っても、どんだけ、言葉が届かなくても、きっとみんなは信じてくれる。きっと最後は『そんな事もあったな』って笑っていられる。

 小奇麗で、安っぽい、空想の中での理想だ。
 そんな理想を、笑わないですむのが、この世界だ。

「根拠の無い、確証の無い、一方的な気持ちだけど、オレはそう思える、そう信じられる。だってみんなは、そういう奴だから。信じさせる何かを持った人間だから。現に山さんは、オレを信じてくれると言っただろ?」
「……時」
「こ、これでいいかしら……っ?」

 こんな事を面と向かって言うのは、凄く恥ずかしいけど、思いを伝える為のもっとも的確な手段は、言葉だ。こういう時に使わないと、宝の持ち腐れになってしまう。

 けどやっぱし、こっ恥ずかしいものは、こっ恥ずかしくて。

 言う事言い終わったオレは、即行山さんから顔を背け、逃げるようにだが、学校へと向かう事にした。恥ずかしさに赤くなっているであろう顔を隠す様に歩いていたのだけれども、どうにも、こうにも、山さんが付いてくる気配が無い。

 何が何やら、不安になって後ろを振り返る。

 いや、勿論、少しだけ顔を向ける程度だ。顔が赤くなっているので、流石に顔全部は振り向かせたくない。『見ろ! まるで顔が茹蛸の様だ!』なんて山さんに言われた日にゃ……日にゃ……心が挫ける……いや、格好の良い山さんは、そんな事言わないだろうけどさ。

(とりあえず、あれだ。山さん、はよ来い)

 と、オレが思おうが、後方にいる山さんが動くわけもない。そりゃあ、オレの意思で動く様なスーパーなロボットではないのだから、当たり前だけど、日本人って空気と気配読むスキルあるから、念じれば何とかなるかと思ったりしたんだけど。

 忘れていた。
 山さんってば、天然テロリストの、空気読めない超人だった。

「や……山さ〜ん」

 もういい加減待てないので、声をかけてみた。
 反応はあった。

「…………あ」
「や……山さん?」
「……あ! わ、わりー! つい!!」
「い、いや、別に構わんのだけれどさ……学校、送れちゃうだろ?」
「あ、お、は、はは! そ、そうだな!  走るか!!」
「え゛!? 走……」

 そんなに焦らなくても、学校はまだ全然大丈夫だよ!
 悲しいけど、学校は逃げないよ!

 しかし、風の様にオレを置いて行ってしまった山本氏。

 暫し呆けた後、どんどん遠ざかって行く山さんの背中に意識を戻され、オレも焦って彼の後を追いかける。追いかけながらに、左腕の腕時計を見やるが、やはり時間は走るほどに焦る物でもない。


 青春の暴走だ。


 そんな事を思っている間にも、山さんの背はどんどん遠くなるので、とりあえず、オタクだってやろうと思えば野球部エースにだって勝てるという意地を、とくと並中の連中に見せてやろうではないか。

****************************** Next Page.

BACK   NEXT
TOP    SITE TOP