◇ Ⅷ - ⅴ ◇ Ⅹ ◇
「――――おっす!!」
「おあっ!?」
「はは! なんだその間抜け面!」
ボケっと、昨日の事を考えながら並中に向かっていたら、後ろから誰かに頭をはたかれる。反射的に振り返れば、爽やかな笑顔をオレに向ける山さんがおるではないか。
そう山さんだ。
まごうことなく、山さんだ。
「……あ……れ? え? ツナ達と先に行ったんじゃ?」
「ん? そう言えば……ツナ達は一緒じゃないのか?」
てっきり、三人で学校に向かってるもんだと思っていたオレは、山さんの言葉に首を傾げる。いや、言葉だけじゃない、彼の存在そのものにも驚かされた。だって彼は、オレに、ツナと同じ視線を向けた筈だ。信じられない物を見るような、悲しいような、傷ついたような…………あ、動悸と眩暈と吐き気が。
とにかく、避けられるとばかり思っていたもんだから 何故オレは彼に声を掛けられているのか、何故彼はオレに笑いかけてくれているのか、もう何が何やら分からない。
そしてそんな『何が何やら分からない』という視線に気付いた彼は、なんとオレへと苦笑を寄越したではないか。これはもう、ちんぷんかんぷんの泥沼化だ。
どう抜け出したら良いのか。
それはもう、訊くしかあるまい。
「何故笑うしっ」
「はは、だって、すっげー顔……!」
「い、いや、だって、まさか……声を掛けて貰えるとは……」
思ってなかったのだよ、時さん。
「あー……うん、昨日はその……悪かった……な」
悪かった……だと。オレは何故、謝られてるのか……また疑問が増えたぞ。彼に謝られるような事をオレはしたのか。何をしたのだ。何があったんだ。
もしかして、山さんのパンを少しだけ頂いたのががばれたのか。山さんの牛乳をちょっと頂いたのがばれたのか。授業で当てられたのに上手い事起こしてやれなかったのを怒っているのか。野球の球を拾って投げてえらい所飛ばしちゃった件についてなのか。
彼に謝罪されるべき事柄が一切思い浮かばない。
て言うか、抹殺されるべき悪人はオレではないか。
……参った。
「考えたけど、オレが謝るべき事しか思い浮かびませんでした」
役立たずの、ごく潰ししてました。
「……はは! なんだよ……オレ結構家帰った後も悩んだんだけどなあ。もしかして……時はあんま気にしてなかったりする……のか?」
「……何を?」
「……んー、ほら昨日の夜さ……会ったろ? その……女子がいた」
…………ああ。
「そこでさ……その、オレ……時の事、嫌な目で見てなかったか?」
嫌な目。
そう言われて思い浮かぶのは、あの時の三人の、オレを疑わしく見る目だ。忘れようとしても、結構鮮明に焼きついている光景なので、消そうに消せない。思わず思い出してしまった事に、顔が歪みでもしたのか。オレに目を向けていた山さんが、再度苦笑を漏らすのが聞こえた。
今度は少し力弱い。
「はは……やっぱ見てたか……」
「……うん……いやでも、だからって、そんな事で山さんが謝る」
「そんな事、とか言うなよ」
オレの声を、山さんの声が遮った。
オレの目へと、澄んで真っ直ぐとした少年の瞳が突き刺さる。その、あまりにも真剣な瞳に、オレの足が思わず止まった。隣を歩く彼も、同時に歩みが止まる。
そして、声。
「そんな事……じゃ、ねーだろ? いや時にはそんな事なのかもしれねーけどさ。そんな事じゃねーんだよ。そんな事で終わらせていい事じゃ、全然ねーんだ」
「……そんな事、だろ?」
嘘じゃない。本当の事だ。
山さん達がオレを疑うのは、あの状況では仕方がない。だって、誰がどう見ても、あれはオレが犯人の立ち位置じゃないか。気にしていない……と言ったら嘘になるが、謝って欲しい気持ちなんて何処にも、これっぽっちも、無い。だから、そんな事、と思っていった言葉だったのだが。
山さんは、そうではないのだ、と言う。
オレより大分と高い位置にある顔を覗けば、苦々しく歪められていた。
今にも泣きそうな表情をしている。
「オレ、さ……あの時……時と目が合った、あの時にさ、あれ? って思ったんだ。 時の悲しそうな顔見て、オレは今どんな目で時を見てた? って」
「………………」
「それで……さ、家に帰って、考えたのな。風呂入って、部屋行って、無い頭で考えたんだよ、オレ……そし、たらさ――――」
『オレは、お前の事を、疑った最悪の眼で見てた』
「時がそんな事する筈ねーのにさ、最悪だよなっ。友達失格だっつのっ」
そう言って笑う彼の顔は、少年らしいそれで。
でも、何処か大人びて。
泣きそうな顔だった。
そう、そうなんだ。
彼等はこうだから、だからオレは、彼等が好きなんだ。
誰かの事を、親身に考えられる人間。友達の事を、本当に想える人間。
だから、信じられる。だから、大丈夫だって思える。オレの世界じゃ、いそうでいないような存在。夢の様な、でも現実で願わずにはいられない存在。馬鹿みたいに、真っ直ぐな人間。
だから……だからさ。
友達失格だなんて、ありえないんだよ。君達はオレの中でとても大きな存在なんだ。オレの事を誰も知らないこの世界で、オレの事が何も無いこの世界で、オレがこんなにも楽しく生きられるのは、君達がいてくれるお陰なんだ。
感謝してもしきれない。
だから――――
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