◇ Ⅷ - ⅶ ◇ Ⅹ ◇
――――追いつけなかったっ。
全速力で走る山さんの背中を追って、オレの足もフル回転で起動していたんだけどな、歳か。歳なのか。体は若いのに心が残念な感じだからいけないのか。いや、山さんが速過ぎなんだ。人間じゃないんだ。スーパーマンなんだから負けて当然じゃないか。
(オレは……良くやったさっ)
校門の所で、ゼェハァ、息を整える。
そんな事で息が整うレベルの酸欠じゃなかった。
「あっはは! わりーわりー! ちょっと本気出して走っちまった! 大丈夫か? なんか、すっげー苦しそうだけど……なんなら陸上部から酸素ボンベ借りてくるか?」
山本さんが、真剣な顔で凄い事訊いてきた。
酸素ボンベ必要なほど苦しんでたんだオレ。
「だ……大丈夫! こ……呼吸困難だし! そ……速度限界を越えたし! そして……何より……酸素が……足りないけど! 大丈夫! ガンダムパイロットは酸素ぐらいでへこたれない! 燃料危機で一番慌て……ぐおほっ!」
「――――っぷふ!」
「わ……笑った……だとっ?」
最初は、オレと同じ距離で、オレより早く走っていた筈なのに、息も切らさず、爽やかに笑ってる中学生へ対して、若さへの恐怖を抱いていた。
しかし、苦しみにうな垂れているオレを見て、噴出した野球少年に、今はただ、最高の憤怒を与えてやろうと思うよ。オタクを笑ったらどういう事態になるか、今から教え込んでやろうと思うよ。
そんな眼力で、睨みすえてみた。
山さんは怯んだ。
「……や、はは……ホント悪かったって! そんな顔すんなよ! な?」
自分より背の低いオレに目線を合わせる様に、両の手を合わせて、オレへと謝るその姿は、流石良い人山本武。謝られた後に、な? なんて首を傾げて笑顔を向けられたら、オレの方が悪い事している気分になる。
そして勿論、先に折れるのはオレの方な訳で。
でもやっぱ、足に自信があるだけに負けたのは悔しくて、だんだんと口先が尖っていく。大人気ない事この上ない。でも今は中学生だから、駄々こねたっていいんだぜ。
「いや……別に……いいんだけどさ。リーチの差がさ。山さん背高いし? 足長いし? 若いし? 体力あるし? カッコイイし?」
「ぷ! あっはは! なんだそれ!」
「……また笑ったようだぞこの中坊」
「……あ、いや、そんな顔すんなよ! な?」
「……じゃあ……負ぶってくれたら許してあげない事もないんだからね」
流石に笑われ続けて頭にきていた白井時さんは、ちょおっとばかし大人気の無い心を駆使して、意地悪を行使する事にしたよ。まあ、正直なところ、本当に体力を消耗していたし、何より先日の怪我もあってか、結構足にきていた。
なので負ぶって教室まで連れて行ってくれ、と、元の世界のオタク仲間にやったら、確実に足蹴にされるであろう申し出を、山さんに対して試みてみた。
まあどうせ、軽く、爽やかに、流されると思っての事だったんだけど。
しまったね。奴は天然テロリストでしたね。
「そんなんでいいのか?」
「…………え゛?」
「そんなんでいいならお安い御用だ! ……よっ!」
「え。て。え――――って! うををい! きゃー! まじかあ!」
『お安い御用』と言った山さんは、オレに背を向けて、なんとも器用にオレを自分の背中へと乗せてしまった。そして、乗せられてしまったオレに「鞄はちゃんと持ってるな?」なんていう気遣いまでをも見せながらに、「ちゃんとつかまってろよ」との声と共に、彼は、ひょいひょい、歩き始めてしまわれた。
あれよあれよと進んで行く事態に、オレの頭は少々混乱気味だ。何時の間にやら靴まで上履きに履き替えさせて貰って、脳みそ、てんやわんや。
そして、只今、廊下。
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