◇ Ⅵ - ⅲ ◇ ⅩⅩ ◇
「――――あ! まただ、てっつん、また龍の巣だ!」
「お前の中のラピュタはUFO以上の出現確率なんだな」
「バルス! バルス!! バルス!!」
「滅ぼすな」
年の頃は、やっと十の位への兆しが見えて来た、八歳。
小学二年生だ。
その日のオレは、幼馴染の今畜生な男の子と共に川原へと立ち、釣竿を握り締めて水の中に居る得物を、今か今かと待ちわびていた。そして、待ち侘びながらに空を見上げ、一際大きい積乱雲を見つけては、先ほどの様な言葉を呟いていた。
知り合いのビデオ屋へと、よく父に連れて行って貰っており、そこで見せて貰えるビデオの影響。話の内容は、少女と少年とその他諸々が、空に浮かぶ不思議都市を活劇を交えながら探し出す、と言う様な物語のアニメーション。
今思うと、ヲタクの資質は十分にあった子供だった。
そして、そんなヲタク予備軍の子供の呟きに対して突っ込むのは、近所でも一番仲の良い少年。その名を、テっつん。正式名称、鷹沖哲郎(たかおきてつろう)、と言う。
どっかの大御所の様な名前をその身に宿す少年なのだが、その風貌はと言えば、貫禄ではなくフェロモンなんてモノを漂わせていた。
髪は少年らしい、短く切り上げた短髪。くせっ毛な為に、あちらこちらへと跳ねているが、それがまたワックスでは出せない自然な跳ね具合を表現しており、子供心に何度その(カッコイイ)髪型ムカつく、と思った事か。
そしてまたその風貌が、輝いて、輝いて、輝いて、ムカついていた。
幼いながらに、キリリとした目元は、学校の女の子達を容易く騙し。モデルの様な顔立ちは、コイツ成長したら絶対たらしになる、と学校の先生達に言わしめ。人生三回のモテ期、だなんて小さいモンじゃない、人生ずっとモテ期の様なコイツの顔。
隣町で安売りしていたらしい、黒色タンクトップに迷彩短パン。こいつが着ているだけで、無性にカッコ良くなるのが、非常にムカついていたのを覚えている。いや思い出した、沸々と、二次元イケメンは良いが、三次元イケメンは嫌いらしい。
「テっつん、ムカつく、ファックユー!!」
ああ、そうだった。オレは思ったことを口に出す子供で、何度となくあの単語を彼にぶつけていた。
「死ね」
そうして毎度、酷い言葉で逆襲されていた。
こんな微妙な関係の二人が、親友、だとか呼び合う仲になるのだから、世界と言うヤツは不思議以外の何物でもない。
「いや死ぬな、生き地獄を味あわせる」
……本当に、不思議な世の中だ。
「返り討ちにするモンよ! て言うかテっつん、今日の引き悪くねー?」
「お前へ対するオレの心は、大いに引いている」
「バッカ! チッげ! 魚! さーかーな!!」
「ばっか? チゲ? 魚? 魚ばっかのちげ鍋?」
「バァーーーーーーーー!! 死ねバカ!!」
「その右手で振り回してる竿の糸に喰らいついている銀色の物体は何だ」
「ぶぁ!! ……………………。ぶぁーーーーーーーーーー!?」
「ファック」
右に居るテっつんから弄られながらも、何とか釣れていた魚は、確か鮎だった筈だ。その日一匹目の魚だったので、もしこれだけだったら、両親にあげよう、と、手製の竹魚籠に入れたのを覚えている。
ニコニコしながらテっつんに釣れた事を報告して、その報告も蹴落とされた様な気がしたが、その辺は覚えていない。
とりあえず、一匹だけでも釣れた事に安堵しながら、再度釣り糸を垂らして、釣れるまでの間、またも積乱雲に目を向け、またテっつんと勝ち目の無い言い合いをしていた。
もう二匹釣れないかな?
なんて。
家族分の魚の数を考えながら、空が赤らむまで魚釣りを楽しみ、結果釣れた魚の数に、テっつんと共に喜んで、またも飽きずに言い合いをしながら帰路に着いた。
オレが帰りながらに歌を歌えば、やかましい、とテっつんが釣竿を突き立ててきて、ソレに負けじと、ライトサーベル、とか言ってオレも釣竿構えて。
やっぱり夏は、日がな一日楽しかった。
空が赤らむのが、何時も何時も寂しくて。
テっつんと違う家に帰るのが、奇妙に名残惜しくて。
でも、両親の待つ家に帰るのは嬉しくて。
そしてその日は、魚が沢山釣れた為に、何時も以上に嬉しくて。
幸せな気持ちのまま、玄関のドアを、何時もの様に横に引いた。
最初は、浮き足立っていた為に何の疑問も抱かなかった。
外は暗いのに明かりの付いていない家。
何時もよりも少し暗くて、冷たい廊下。
あの時間なら、母さんの作るご飯の匂いが漂って来ているのに。
もっと早くに気付いていたら、何かが変わっていたかもしれない。
オレがもっと賢かったら、幸せはもっと続いていたかも知れない。
もっと……もっとオレが、しっかりしていたら。
「・…………母さん?」
二人を失わずに済んだだろうか――――?
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