◇ Ⅵ - ⅴ ◇ ⅩⅩ ◇
「帰ってくるよ」
「こない……よっ」
テっつんに腕を引かれて連れられたのは、彼の家。
縁側に腰掛けて、満月の明かりに照らされながら涙を流した。
オレの左隣に座っていたテっつんは、足を揺らしながらに仏頂面だったのを微かに記憶している。口を尖らせながら、眉間にしわ寄せて、オレへと慰めの言葉を吐くが、その言葉にオレが同意しない事に、イライラしていたのだろう。だが、左手に繋がる彼の手からは、確かに暖かな優しさを感じていた。
コレは確かに覚えている。
「帰ってくるってば……」
「こ……こない……っ」
「ナニ? オレの言う事聞けないの?」
「だ……て、父さんも母さんも……としだも……っ」
「……おばさんもおじさんも、ちゃんと生きてるって、母さん言ってた」
それでも。
帰らないモノもある。
そう、オレの頭が呟いた。
二人は、風呂場で頭を強打していたらしい。恐らく……と、テっつんのお母さんから聞いた話を、微かに覚えている程度だが。
恐らく、二人が頭部を強打したのには家の欠陥工事が原因だろう、との事だった。湯船から上がろうとしたオレの父は、風呂の淵に手を置いて立ち上がろうとした。しかし、風呂場の床下が欠陥工事の為に腐っており、上からの力によって湯船が陥没。掴まっていた湯船がいきなり沈んだ事によって、体制を崩した父は湯の中で転倒。そして、それに気が付いた母が父を助け起こそうと……助けを呼びに行けば良かったモノを気を急いてしまい、コチラも転倒。
コレが、テっつんの母親が話した“事”のおおよその真相。
この話を聞いた時に、オレは、ああ、と思った。
子供だって、バカじゃない。
少し考えれば分かる。
自分の両親の歳で、頭を強打して、意識不明で。
本当に帰ってくるのなら、きっと皆、もっと笑顔だ。
隣に居るテっつんだって、もっとムカつく顔をしている筈だ。
なのに、皆ずっとオレを慰めるんだ。
きっと、とか、必ず、とか、絶対、とか。
それが無性に、辛かった。
そうした次の日の朝。
友人の家に泊まったオレの耳に入ってきたのは、予想していた言葉。
『二人が息を引き取った』
それを聞いたオレは、やはり、と意外に冷静だった。涙は前の日に枯れ果てて出なかったけど、思いの他、落ち着いている自分が居た。
でも。
その後、数日の事をよく覚えていない人間を、落ち着いていた、と言えるのか、正直微妙な所だ……。
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