◇ Ⅵ - ⅳ ◇ ⅩⅩ ◇
――――家に帰ったら、何時も居間に居る父さんが居なかった。
仕事から帰って、風呂に入って、丸い小さなちゃぶ台の前で新聞を読んでいる筈だった。そして母さんも、何時も居る台所にはおらず、たまに居る小さな庭にもおらず。
二人共が居なかった。
少しだけ不安になったが、唐突なその“事象”を予期できる程、子供の思考能力は暗くはない。いないな、なんて、何処吹く風で、今家で起きている事を知らないままに廊下を歩いて風呂場の脇を通った。
暖かい湿気に、ふと顔を向けただけ。
目の前に広がる光景なんて、予想だにしなかった。
だって、普通思わないだろう?
目の前で、大切な、大好きな両親が、二人してぐったりと倒れているんだ。まさか、とも、考えもしない。さっきまで、オレの頭の中の両親は確かに生きていたんだから。生きていて、笑っていて、オレの頭をなでてくれて、三人で一緒に鮎を食べて。
幸せな光景しか考えてなかったんだ。
だから、オレの頭は追い着かなかった。
どうして二人が倒れているのか。
どうして二人は動かないのか。
どうして二人はオレに、お帰り、と言ってくれないのか。
どうしてオレは泣いているのか。
あの時のオレには分からなかった。
手に持っていた竹魚籠は、乾いた音を立てながら木製の古びた床に落ちて、その後に聞こえてきた、テっつんの声にも反応出来なかった。
正直、テっつんがオレの家に来てくれなかったらオレはそのまま立ち尽くしていただろうと思う。現にオレはその後の事を良く覚えていない。気が付いた時には、父さんと母さんは病院に連れて行かれてて、オレはテっつんの前でわんわんと泣いていた。
きっと大丈夫だ、と。
ちゃんと帰ってくる、と。
何度も何度も、安心させる様にオレへ言ってくれた友人。
でも。
ソレが本当にならない事を。
オレの覚悟は知っていた。
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