ⅩⅩⅧ - 人皆旅人

◇ Ⅷ - ⅰ ◇ ⅩⅩ ◇

 オレが生まれたのは、ヨーロッパはイタリアの、マフィアの家だった。


 気付いた時には、その世界に染まっていて。
 気付いた時には、大人達と同じ場所に立っていた。
 オレにとってのソレは、大した事じゃない、当然の事だった。

 自分が居る世界の過酷さは既に知っていた。

 生きる為には、子供のままではいけない。
 大人達と対等にならなくてはいけない。
 だから大人になる事に抵抗はなかった。
 寧ろ早く大人になりたいと思っていた。
 純血ではないオレは、ただでさえ舐められてしまうから。
 少しでも早く、少しでも強い。
 周りの大人たちを黙らせる大人に。


 オレは早くなりたかった。

 そして、なったと思っていた。


 オレは既に、大人連中と対等ぐらいにはなっているのだと思っていた。
 大人達がオレの事を認めないのは単に、そいつ等の目が節穴なだけで。
 オレはもう、大人になったものと思っていた。


 ……リボーンさんの話を聞くまでは。


 オレには、時の気持ちが半分分かる、とあの人は言った。
 最初その言葉は良く分からなかったが、考えてみればすぐに理解した。

 幼くして、両親を早くに亡くしたアイツ。
 母親のいない、特殊な世界で生きてきたオレ。

 そんなに、似てるもんじゃない。
 全く違うと言ってしまえば、その通りだ。


 ……だが。
 本質は良く、似ているんだ。


 子供として生きる事を、自ら絶たなくてはいけない状況。
 子供のままでは、決して生きてはいけない状況。

 それが、オレとアイツが生きてきた環境の共通点。

 親のいない状況下で、甘え、なんて行為、したくても不可能。
 他の大人達に、甘えなんてモノを押し付ける事なんて出来やしない。

 血生臭い世界。
 力無い者がすぐに死ぬ世界。
 そこでの甘えなんて行為は、余計なモノ。

 弱みを見せればすぐに死ぬ。
 強く在らなくてはいけない場所。
 そこでの甘えは、命取り。


 だから、大人になる事を行使しなければならない。


 確かに、言われて、考えて、似ていると思った。
 でも彼は、父親と姉がいる分、オレの方がまだマシだ、と言った。
 ついでに言えば、アイツの気持ちは半分しか分からない、とも言った。


 何故?


 なんて、疑問に思うまでもない。
 親父と姉貴が居る分、オレはまだまだ大人気取りの子供って事だ。
 悔しいが、アイツを見ちまったら、良く、分かる。

 本当に甘えを知らない人間が、どんなモンなのか。
 早くに大人になって生きてきた人間が、どんなモンなのか。
 ボロボロになったアイツを見れば、良く、理解出来た。

 そして理解しちまった分、何故だが心臓がすり潰される様だった。

 自分じゃ良く分からない感情が押し寄せてきて。
 その感情に飲み込まれて、溺れて……。

 オレ達に甘えて来なかったアイツへの憤りだか。
 甘えられない様な状況に、アイツを追い込んだ自分への憤りだか。
 良く分からない感情に、頭が支配されて。


 気が付けばオレは。


 アイツの大切な“物”が沈む、川、の傍に立っていた――――

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