ⅩⅩⅧ - 人皆旅人

◇ Ⅷ - ⅲ ◇ ⅩⅩ ◇

 薄着になったオレの体を、冬の風が刺すように掠めた。
 だが、どうと言う事はない、銃弾の雨よりかはマシだ。

 歩を一歩前へと進める。
 視線の先には、何も見えない闇の川。


「気張れよ、オレ……」


 視線を動かさないまま、一呼吸置く。


 そして。


「お前って、思いの他、馬鹿だよな」


 ……そして。

 タイミングを見計らった様にして、オレの右隣へと姿を現した、黒コートと黒い帽子、そしてその上に緑色のカメレオンを乗せた赤ん坊。


「……リボーンさん……」


 どうしてこんな所に……。


「たまたまだ。」
「心……読まないで下さい……」


 いざ、川に飛び込まんとしていた所で、見事その行動を遮られたオレは意気消沈。タイミングを逃したオレはその場に立ち尽くし、落ちる頭へと左手を添えた。寒いのどうのなんて、正直この際どうでも良い。


「で、お前川に飛び込もうとしてたよな? 馬鹿か?」
「……いや、その、ちょっと、寒中水泳でも、と……」


 リボーンさんに言われて、少しだけ正気に戻る。

 そもそも、何故オレはこんな事をしようとしたのか、どうして川になんて来たのか。冷静に考えて、結果、微妙な現実をオレの頭はオレ自身に突きつけて。その現実が癪だったんで、苦しい言い逃れをしてみた。

 そうすれば、心なしか呆れたような目をしているリボーンさんの視線が、足下から注がれた。……様な気がした

 いや、そりゃ、マジで寒中水泳なんてしてた訳じゃねぇけど。
 だからって、別に時計探してたとか、別にそんなんじゃねぇし。


「情けねぇな」
「眉をハの字にしないで下さい」
「このまま潜ったら時の二の舞だぞ」
「……別に、アイツは関係ないっスよ」
「……とりあえず、時計は俺にまかせて、お前はツナんちに戻るなり、チンピラまがいの事するなり好きにしろ」


 間違っても凍死すんじゃねぇぞ。


 そう、遠まわしに、川に潜るな、とオレに言ったリボーンさんは、その小さな足の何処にそんな脚力があるのか、人外のジャンプ力で川橋へと戻り、暗闇へと姿を消した。

 そして残されたオレは、上着を脱いだままの状態で暫く立ち尽くし。リボーンさんの言葉を無視して、再度視線を川へと向ける。


 潜れば、時の二の舞。


 そんな事は分かっている。
 だが、あの時計が無いと、アイツはきっと笑わない。

 ……いや、アイツなら笑うだろう。

 平気だ、と、問題ない、と、そう言って笑顔を振りまくだろう。
 でも、いくら笑顔を貼り付けたって、きっと分かる。
 取り繕った笑顔の下の、悲しみや孤独、不安や恐怖。
 支えだった物がいきなり消失して、崩れ落ちて、泣いて。
 あんなモノを見せられた後に、笑顔を信じろと言う方が無理な話だ。


 ……そんなの、ウザイんだよ。


 無理に笑ってる顔見せられたって、正直鬱陶しい事この上ない。

 だったら何時もの、何が楽しくて笑ってるんだか分からない、ヘラヘラした顔の方がずっとマシだ。はぶられてんのを逆に楽しんで、ちょっかい出してくる連中を馬鹿みたいにあしらって……。

 ………………。


「…………あ?」


 ちょっかい……出してる連中?
 な……んか……忘れてねぇか、オレ。

 自分の考えが、ふと、引っかかり、川に向けていた視線を正面へと上げた。ソレで何が見えると言う訳ではない、突発的な行動だ。次いで、右手を口元に添えて、誰が考え出したのか分からない、思考する際の形。


 何か、何かをオレは忘れている。
 昨日……?
 いや、恐らく今日だ、今日の……なんだ?


 ふとした引っ掛かり。
 だが、とても重大な引っかかり。
 ソレを何とかして思い出そうとする。
 目を閉じて、視界の暗がりの中で自分の記憶を閲覧する様に。

 慎重に。
 的確に。
 思い出せ……――――

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