◇ Ⅷ - ⅳ ◇ ⅩⅩ ◇
『――――昨日今日で白井のヤツ来なかったな』
これだ。
頭の中で反響する様に引き出された、音。
人の声、男、同年代。
だが、まだだ、まだパーツが足りない、パズルが組み上がらない。
コレは恐らく、今日出会った人間が発した言葉。
だったら、今日の昼間、出会った人間を思い出せば良い。
家から出て、十代目の家に着くまでの間。
小学生、犬を連れた爺さん、主婦、宅配の業者。
それから……それから……――――
『――――昨日今日で白井のヤツ来なかったな』
(――白井。)
(その言葉一つでオレの心が、静かに跳ねる。)
(振り返れば、オレと同世代の男が二人、塀に寄り掛かっているオレの傍を通り過ぎる所だった。どうやらオレの存在には、気付いていないらしい二人。オレの視線にも気付かず、二人で会話を続けている。)
『やっとイジメが効いて来たんじゃねーの? 笑ってたけど内心スッゲー泣いてたとかさ?』
『はは! 自業自得だろ? 犯罪者は学校なんか来んなってーの』
『それよりこの時計どうするよ? なんか結構高そうだし……売るか?』
(塀に背を預ける形に体制を変えて、左から右へと通り過ぎてゆく二人の会話に耳を研ぎ澄ませる。気配を消してしまえば、この程度の一般市民に存在を気取られない様にするなんて容易い。そうして聞き耳を立てた結果聞こえてきた内容は、どうやらオレの知る“白井”の事についてだったらしい事が分かった――――)
――――見つけた。
時計の在り処も。
オレの牙が向く対象も。
ココにはもう用は無い。
あの二人、まずはどちらに行くか。
家が近い方……は、どっちだったか。
地面に置いておいた上着を拾い上げ、袖に腕を通しながら頭に叩き込んであった並盛のデータバンクを漁る。十代目を調べるにあたり付いてきたオマケの様な物が、こんな所で役に立つとは思わなかった。
川橋へ登る為の階段へと歩を進める。
頭の中では、どう時計を取り戻すかの算段だ。
もしも質に売られていた場合は、半殺しにしてでも取り返させる。
親が出てきたら面倒だが、まぁ、どうって事は無い。
階段を登りながら、自分の口角が吊り上がるのが分かる。
多分、今のオレは、凶悪な面をしているに違いないだろう。
だが、仕方がない。
久しぶりにする本気の喧嘩、血が騒ぐのは仕方がない。
心拍が上昇して体温が上がる。
頭に血が上る、とまでは行かないが、それに近い状態のオレの体、顔。
「……待ってろよ……」
川橋を離れる間際に呟いた言葉。
それに答える様に、川辺の冷たい風がオレの頬を掠めて……。
熱くなった顔には、とても、心地が良かった――――
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