◆ Ⅸ - ⅲ ◆ ⅩⅩ ◆
――――足元がふらふらする。
頭が地味に痛い。
熱いんだか寒いんだか、良く分からない体温が少々癇に障る。
部屋から出たオレは、とりあえず、階下へと向かう事にした。
廊下の空気は冷やりとして寝巻き一枚しか着ていない、しかも体調の悪い今の体には少しばかりきつかった。その空気と同じくして、床のフローリング、階段も、接触する所から僅かな体温が奪われるような感覚だ。
でも、そんなの気にしてなんていられない。
時計を探さなくちゃいけないのに、そんなの気にしてなんていられない。早く川から取り出さないと動かなくなってしまう。いや、もしかしたら、もう既に止まった後かもしれない。
そんなのは……嫌だ。
一緒に同じ時間を過ごしてきたのに、父さんと母さんの代わりに、ずっと一緒に同じ時間を生きて来たのに、止まってしまうなんて、無くなってしまうなんて、もう二度と会えないなんて……。
……またオレを置いていくのか?
「――――時!?」
背後から、声がした。
懐かしい様な、そうでもない様な、そんな声。
玄関の取っ手に手を掛けた状態で振り向けば、右手に薄く濁っている水分の入ったペットボトル、左手に白いタオルを持った、オレと同じ背丈の栗毛色の髪をした少年。
ツナ、沢田綱吉が廊下の真ん中に立っていた。
「……ツナ?」
「なななな何してんだよ! て言うかいつ起きたんだよ! て言うか待って! 何してんだよ! って、ああ! いやいやいやそうじゃなくって! って、うああもう訳分かんねーーっ! どどど、どうしよ!? ねぇどうしよ時! って、聞くなよ! ああもう嫌! ととと、とりあず時! 待って! そこ動かないで! 今そっち行くから! 絶対に動くなよ! 動いたら飯抜きだからな! みくちゃんストラップ粉砕するからな!」
何やらオレの前に現れたツナの様子がおかしい。
ペットボトルを持った手と、タオルを持った手を振り回し、オレを指差しては疑問符を浮かべ、頭を左右に振りまくり、自分の言動に頭を抱え、オレに疑問を投げ掛け、自分に自分で突っ込み、オレへと動くな宣言をし、果ては脅迫。
じわじわと近付いて来る挙動不審なツナが怖かったが、ソレよりも怖かったのがツナの言い放った言葉。
ミクちゃんストラップの粉砕。
今現在、閣下(雲雀恭弥閣下)の手元にある彼女を、どうやってツナが粉砕するのかは分からないが、その行為は頂けない。
頂けない……が、今のオレはそんな場合ではない。
確かにミクちゃん粉砕は、とても、とっても重犯罪だ。けど、今のオレには時計――両親の形見の腕時計の方が優先順位は俄然上になる。故に動くな、と言われても、脅しを掛けられても、今のオレは、止まる、なんて事はしない。止められている暇はない。
ごめんミクちゃんっ。
意識の端に粉々になるミクちゃんを思い浮かべ、耳に届くツナの声を振り切る為に、オレは手を掛けていた扉の取っ手を回した――――
「あっ! コラ時っ!!」
「おっと!」
取っ手を回して、開けて、ツナに向けていた視線を外しながら、前へと歩を進め、その後は僅かに残っている無駄な体力で、川まで走るつもりだった。しかし、オレの体と意思は前方に現れた暖かな障害物に進行方向、思考回路、共に遮られてしまった。
紺色のダウンジャケットが眼前を覆う。
その視線を上方へ向ければ、オレよりも幾分か背の高い、黒髪短髪の少年。……またも、懐かしい様な、そうでもない様な、知った顔の少年。
「……や、やま……さ」
「……と…………き?」
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